思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

個人的国内外チェスニュース5(2023年6月投稿)

 

【国外1】Superbet Rapid&Blitzポーランド大会、Carlsenが優勝

1 大会のおおまかなシステム

 本大会は、10人のプレイヤーが2種類のタイムコントロールで戦う。最初の数日はラピッドで総当たりの9ゲーム、その後にブリッツで総当たりの18ゲーム(各相手と白番&黒番の一試合ずつ)を行う。獲得するポイントは、

・ラピッド:勝ち=2pt、ドロー=1pt、負け=0pt

・ブリッツ:勝ち=1pt、ドロー=0.5pt、負け=0pt

 上記のポイントを合算し、27ゲーム全勝すれば36pt。最多ポイント獲得で優勝。

 

2 Rapid部門はDudaが制覇

 大会序盤はWesley Soがリードしていたものの、地元ポーランドの若手SGM(※スーパーグランドマスターの略:レーティング2700オーバーの一握りのGM)であるDudaがラピッド部門終了時点で暫定1位に。

 なお、Carlsenは初戦(黒番)で1.d4 b5!?という出だし。ポーランドで行われている本大会で「ポーリッシュ」というオープニングを使い話題になっていた。

 

 また、フランスのトップSGMの一人であるMVL(※Maxime Vachier-Lagraveの通称)は、普段は白番初手でe4を主軸にしているところ、d4でロンドンシステムを投入する等、内容面でも興味深いものが多かった。以下のリンクはラピッドの最終成績。

2023 GCT Superbet Rapid & Blitz Poland: Day 3 Recap

 

3 BlitzではCarlsenが制覇&全体でも優勝

 世界王者ではなくなったものの、やはり彼の強さは抜きんでていた。ラピッドでポイントを落とした相手に対してもどんどん勝ちを重ね、大会序盤で後塵を拝していたのが幻かのような活躍だ。Dudaを追い上げ、直接対決も制して総合ポイントで堂々の優勝。

Magnus Carlsen wins 2023 Superbet Rapid & Blitz Poland

 

4 <補足>世界王者戦に影響する大会

 世界王者戦の挑戦者は、Candidatesという8人のみが参加できるリーグ戦の優勝者である。その8人は、特定の大きな大会での優勝者やレート最上位者など。このうちの1人は、この大会を含む特定の大会の総合成績をポイント換算して決定する。そういう意味で、本大会は世界王者戦に向けても無関係ではない大会の一つだ。システムとしてはテニスでいうATPツアー&ファイナルが近いかもしれない。

 参考までに、直近の方式につき以下のFIDEのリンク(英語)を貼っておく。つい最近行われたNepo-Ding戦の王者決定戦は、王者のCarlsenが辞退する等のイレギュラーな事態が生じていたが、どのようなメンバーや仕組みだったか、雰囲気を感じてもらえば幸いだ。

FIDE World Championship Cycle

 

【国外2】往年のプレイヤー、SvidlerやAdamsの活躍がアツい

 伸び盛りの若手SGM、最年少クラスのGM、歴戦レジェンドGMが集まった大会で、P.Svidlerが優勝した。Svidlerは近年はchess24のYoutube解説を多く務めるなど、解説&コメントが達者であるとともに、長きにわたりトップクラスでの戦いを繰り広げている40代後半のプレイヤーだ。MVLとともにグリュンフェルドという対d4定跡を引っ張ってきた一人でもある(いまはこの定跡がレッドリスト入りかもしれないが…)。

 なお、同大会ではGelfand(イスラエル)とのこれまで何度も戦ってきたであろうベテラン対決もあり、往年のファンをも沸かせた。

 

 一方、English ChampionshipではM.Adamsが貫録の優勝。彼は50代ながらもレート2600代後半を維持しており、プレイスタイルも1.e4を中心とした、王道のチェスという言葉がぴったりのプレイヤーだろう。

English Championship: Michael Adams and Katarzyna Toma win titles

 

【国内1】国内チェス大会の人気増!?

 先日のゴールデンウィークオープンの満員御礼に引き続き、6月開催の全日本ラピッドについても開催1か月前に参加定員が埋まった。加えて、7月に神戸で開催されるジャパンチェスクラシックについても、80名の定員が5月時点で一度埋まった。レートを問わず、リアル大会に出たいというプレイヤーが増えることは、すばらしいことだろう。日本チェス連盟の方々や各クラブの方々、それ以外の動画配信等の独立した取り組み等、様々な方の普及活動の成果だろう。

 なお、従前の大会では、キャンセル枠の追加募集がされたケースもあるため、乗り遅れたけど出てみたい…!という方も、時折公式情報をチェックだ(もちろん、追加等があるかは状況次第だろうからダメ元くらいのスタンスで)。今回の神戸も追加枠が発表され、本投稿時点(6月半ば)ではわずかに残っていそう。

 

【国内2】東海オープン

 5月末に名古屋で東海オープン(全4ゲーム)が開催された。3.5ptで2人が並んだが、タイブレークの差でIMの小島さんが優勝し、新進気鋭の米満さんが準優勝。最後の試合は3戦全勝だった両者の直接対決で、ドローだった模様。このカードは全日本選手権でも発生しており、その際は小島さんが貫録を見せていたところ、今回はポイントを分け合う形になった。3位の岡部さんはユースの実力者で、今後さらに活躍するだろう。

NAGOYA CHESS CLUB

 

【国内3】全日本ラピッド

1 概要

 15分+インクリメント10秒のタイムコントロールで全9ゲーム。日本を代表するマスターから大会初参加と思われる人まで様々な方が集まった。

 なお、本大会はFIDE戦で、国際レーティングも変化する。ラピッド形式としては、名古屋チェスクラブの中部快速選手権も近年はFIDE戦だ。

 恒例になったYoutube配信につき、1日目は中継対象3ボードすべてがランダムで選ばれた。全日本選手権の東京予選では1ボードだけランダムボードだったため、その拡大版だろう。普段の配信では観れない組み合わせを見ることができた。偶然にも現役大学生のボードが中継に登場することが多く、新鮮な人も多かったかもしれない(レベルも高い)。

 

2 Tuさんが貫録の優勝

 スタート時点のリストトップのTuさんが8ptを獲得し優勝した。Tuさんは2022年のオリンピアードの代表選手であり、直近の全日本選手権でも南條さんと優勝争いを繰り広げるなど、日本のトップを牽引するプレイヤーだ。同じくオリンピアード代表選手だった小林厚彦さんに8ラウンドで唯一の土を喫したものの(綺麗なタクティクスなので気になる人は配信をチェック)、他のトッププレイヤーを圧倒した。なお、この8ラウンドでは古谷さん(最終結果2位)が山田弘平さん(同3位)を破っており、白熱したラウンドだった。

【早指し日本一決定戦】全日本ラピッドチェス選手権2023 第8ラウンド | 2023.06.11 - YouTube

 Tuさんはこの夏に開催されるチェスのワールドカップに日本代表として出場する。ワールドカップは、トーナメント方式。タイブレークなどの難しいことはせず勝てば進み負ければそこまでというシステムだ。上位に食い込めば、上述のCandidate(世界王者戦の挑戦者決定戦)に参加できるため、日本勢としてはかなり久しぶりに世界王者への途が拓かれた。