思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

将棋プレイヤーがチェスを強くなるために気を付けたいこと(チェス記事)

 

0 契機

 一般に似たようなゲームと思われがちだが、ルール以外にも違う点は多い。そこで、将棋から最初にはじめたプレイヤーの一人として、現時点の実力で感じたり考えたりした点を示したい。なお、私は将棋もチェスも(できれば囲碁も?)プレイヤーとして強くなりたいと思っている。日本にいることを最大限に生かした楽しみ方をしたい。

 最近は日本チェス連盟や各クラブの尽力もあってかチェスをする場が増えつつあるものの、日本でメジャーな将棋や囲碁にまず触れるという人が多いのも事実である(Giriも日本のマスターとの同時対局の際にこの点を指摘していたと思う)。将棋や囲碁出身プレイヤーは、先を読む技術は備わっているため、この部分をチェスで使うことができる。チェスでいうカリキュレーションやタクティクスの一部に対応する部分だろう。

 ただ、あくまでチェスはチェスである。チェスというゲームが有するこれらのゲームとの違いを認識した上でプレイする方が強くなるはずである。私のようなアマチュアで両方楽しむプレイヤーが増えることで、チェスの人口も相対的に増えれば良いと願う。

 どの競技でも、のんびりと楽しみたい派の人や交流の一環としてという人もいると思うが、以下の内容では強くなりたい人に向けて(自戒も含めて)、主に将棋との対比で現状理解していることを記したい。私は、将棋は奨励会にいたこともないし、チェスもマスタークラスの強いプレイヤーではない。記載内容につき当たり前と思う方もいるかもしれないが、考える契機になればと思う。

 

盤上1 持ち駒制度による差異

(1)持ち駒の有無

 そんなの当然だと思うかもしれないが、改めて確認したい。将棋は相手の駒を取ったとき、持ち駒として使うことができる。したがって、銀が最初は自分の駒だったがそのあとに相手の駒、そのあとにさらに自分の駒のように、一局の間に双方を何度も行き来する駒もある。

 一方、チェスではプロモーションという観点は除いて、駒は減る一方である。タクティクスにおいても、将棋は取った駒を持ち駒としたラインで構成することができるが、チェスは盤上の駒でそれを構成しなければならない。

(2)チェスの駒のダイナミックさ

 他方、チェスの駒は駒自体が非常にダイナミックな動きをする。持ち駒がないことにより、将棋では合い駒で容易に受かりそうな単純なチェックやスレットが妙に受けにくいことがある(バックランクメイトが典型だろう)。

 他競技で培った「受かりそう」、「攻めきれそう」の感覚は絶対に大事だが、それを過信せず、まずは読みで裏付けることを積み重ねる必要があるだろう。この部分に関しては、純粋にその部分を基礎から学ぶ直すか、日々のトレーニングで様々なチェスのスレットに頭を適応(ギアチェンジ)させることで一層のパフォーマンスが期待できると思う。

(3)私見

 これに関連し、私の経験としては、将棋の「攻めきれそう」よりチェスの「攻めきれそう」は厳格に評価する必要があると考えている。どの競技でも時間がなく読み切れない状況はどうしても生じるが、そこで「わからん!えいっ!」と攻めに突っ込むケースにおいて、将棋での成功率よりチェスでの成功率は低い(当社比)。

 

盤上2 チェス盤の色の意識

(1)ビショップに関する色

 将棋では角は打ち直すことができ、筋違い角などが可能である。しかし、それぞれのビショップは最初にいるマスの色しか動くことができない。このことの重要性を看過しがちである。

 私自身、以前はビショップもナイトも3点じゃん!で特段考えずにザクザク交換して駒損してないけどストラテジー負けみたいなのをたくさんやっていた(今思うと胃が痛い)。白マスビショップを無策に交換して白マスをアウトポストにされたり、そのマスにいる弱いポーンを狙われて徐々に動きづらくなったりして、明確な駒損はしていないのに負ける。これが大きな違いであり、チェスの面白いところでもある。

 私見だが、全く別ゲームだという前提であえて喩えるなら、ビショップは駒の動きは角だが、将棋における飛車みたいなものだと思っている。将棋の序盤で飛車角交換をすることもあるが、そのとき代償がないか等の読みを入れると思う。なぜなら二枚飛車がウルトラ強いから。ビショップペアもそんなイメージ。そういうイメージで、ビショップとナイトの交換は、特定の定跡などで自動化されている部分を除き、少なくともノータイムで指さないようにした。

(2)ポーンストラクチャーに関する色

 次にポーンストラクチャーの観点。わかりやすいのはフィアンケットしたキングサイドの構造だろう。フィアンケット構造はそのビショップがいるとシナジー効果で強い。ビショップが残っているフィアンケットの状態は、上記と同様にあえて喩えるならば、石田流(本組み)で飛車の斜め前を桂馬などの他の駒の効きでカバーしている状態に近い。フィアンケットを構成していたビショップがいなくなると、ビショップが守っていた色のマスは容易にホール(弱点)になる。

 この点に関し、私が取り組んだのは、恥を惜しまずに入門書や初級者向けの動画などを観なおし、チェスにおけるマスの色について再認識し、その上でブリッツやトレーニングをするようにした。本あるいはマスターの棋譜を観る際も、時折、色の意識をもって観るようにした。遠回りかもしれないが、ここらへんのチェスの原理ともいうべき部分は、きっと高レート帯の人でも程度の差はあれど悩んでいるところだと思う(ビショップペアを手放して将来大丈夫かなど)。したがって、長期的目線で地道な学び直しと思い、行った。今も正直わからないことばかりだが、これを始める前よりは思考の精度は向上していると感じる。

盤上3 マヌーバーに対する考え方

(1)チェスのマヌーバー

 チェスで頻繁に生じるスキルはマヌーバリングだと思う。これは上述した駒の動きのダイナミックさに由来するものだろう。ストラクチャーにもよるものの、ポーンとキングを除き、3手程度で端から端まで行き来できる。その分、どこに何を置くかという駒の配置に繊細な判断を要する。クローズドのルイ・ロペスはその典型だろう。

(2)将棋でのマヌーバー

 このような状況は将棋でもないわけではない。地下鉄飛車のようなダイナミックな戦法は別としても、現代角換わりや現代相掛かりの序盤では攻守一体となっている陣形もあり、最適な配置及び手番に向けて玉・飛車・銀を(チェスでいう)トライアンギュレーションする手筋もある。

 ただし、定跡として定着している部分はあれど、マヌーバーのスキル自体を上げるというようなことは稀である。おそらくだが、攻めで使ってる銀交換して囲いに近くに打ち直した方が早くない?というような持ち駒でリカバリーできるケースも多いからだろう。

(3)経験談

 私はマヌーバーに関して、そのままチェスに汎用できるほどの頭脳はなかったので、ここでもチェスならではのマヌーバリングを一定の定跡やマスターの棋譜から純粋に学ぶことにした。特にイタリアン(ジョーコピアーノ系統)やルイ・ロペスのじっくりしたものは勉強になったと思う。思い返すと、マヌーバーという選択肢に対する意識が低かったころは、ポーン損しても正面突破!みたいな無理攻めが多かったように思う。

 

盤外1 種々の棋譜の活用

(1)学習面

 アマチュア将棋では大きな大会で勝ち上がったりしない限り、その場で採譜する(される)ことはない。高段レベルであれば、4局くらいの大会であれば帰ってからでも全部再現できることもあるが、少なくとも10年前の棋譜と比較すると…みたいなケースはアマチュアではほぼない。

 一方、チェスは非マスターレベルでも一定の持ち時間であれば、自分での採譜は義務である。したがって、自分の棋譜がどんどん貯まっていく。しかも時間も棋譜用紙に書くことが許されている(※FIDEのルールに棋譜用紙に書いてよい事項は記載されているため、気になる人は調べてみてください)。

 これを活用しない手はない。改めて検討や解析するもよし、自己分析して武器や弱点を把握するもよし、とりあえずコレクションしておいて使いたいときに使うもよし。

(2)対策面

 関連して、チェスで「プレパレーション」が根付いているのは採譜の文化が一因であろう。つまり、自分も相手も棋譜をとり、場合によっては大会サイドから公開されるため、棋譜が残り、準備をしやすい(&されやすい)のである。

 将棋や囲碁においては、県予選を抜けるには絶対に当たるであろう有名な強豪とかがいない限り、基本的には行き当たりばったりでキャラ対策などをするコストが見合いにくい。この点については好みが分かれるところだろうが、個人的には、アマチュアレベルでも人間的な戦略勝負をしやすいと思うので、チェスという競技の好きな一面だ。

盤外2 タイムコントロール

(1)将棋の持ち時間

 逆に将棋をやっている人にとって負担が減る点ないしメリットもある。特にリアル(OTB)チェス大会においては、持ち時間がその一つだと思う。なお、最近はAbemaトーナメントや王手対局サイトでのフィッシャールール採用の影響で、将棋界でもフィッシャールールへの知名度が高まっている(公式戦ではまだ存在しない)。

 将棋の秒読み制度では、相手の持ち時間に考えることができる点は別として、自分の時間を30秒や60秒から増やすことはできない。切迫した時点で、最大で連続して思考可能な時間は上限がある。

(2)チェスの持ち時間

 しかし、チェスでは上記のフィッシャールールが常である、強制手の連続やドローにならない程度の同一局面ムーブにより終盤に持ち時間をためることができる(時間が『復活』しうる)。

 さらに、日本ではマスタークラスとアマが混然一体となってプレイする大会が多く、持ち時間もアマチュア将棋に比べると格段に長い。スタンダード(例えば、40分+1手30秒など)のような長さは、アマ将棋界では中々経験できないレベルの長さで、じっくり考えることができる。クラシカルのFIDE戦に出て、こんなに考えていいんだと筆者は感動した。早指しが苦手な人でも十分に考えて楽しむことができるだろう。

 また、アマ将棋勢は30秒将棋に慣れているだろうから、そこの肌感覚を養っている人はこれを活かせるかもしれない。筆者も30秒将棋や10秒将棋をバンバンやっていたので、頭の中で残り5秒くらいになると「ピー」チェスクロックの音や将棋倶楽部24の効果音が鳴りそうな感覚がある。その影響もあってか、「あれ、今何秒だ!?」みたいに確認する回数は結構少ない気がする。逆に、チェスからはじめた方やチェスのみプレイしている方にとっては、時計が無音であることが常だろうから、ここのおおまかな時間感覚は将棋(や囲碁)で鍛えるのもありかもしれない(チェス以外もやってみたい方)。

・さいごに

 以前に、チェスと将棋は別ゲーという話がSNSで話題になっていたため、書き溜めていたものの公開するには少し勇気が必要だった。不正確と思われかねない喩えかもしれないが、わざわざこの文章を読んでいるような方は、他者の文章を鵜呑みにするような方ではないだろうから、「これは違くない?」とか「ここはわかるけどやり方が微妙な気がする」等、自己のトレーニング方法などを考える契機になれば幸いだ。私自身も、将来この文章をみて疑問に思うことができるように、実力向上を目指したい。

個人的国内外チェスニュース7(8~9月分)

 

 

【国外1】W杯、遂にCarlsenが優勝

1 概要

 W杯はチェスでは数少ないノックアウト方式の大会で、トーナメントを勝ち抜けば優勝という明快なシステム。このシステムゆえ、過去にも様々なドラマや新鋭選手の活躍があった。トップSGMからマスター称号のない選手まで、一定の基準で選ばれた様々な選手が参加。日本に関連する参加選手などは、日本チェス連盟の以下のページ(下部)にまとまっている。

FIDE World Cup 特設ページ | 日本チェス連盟

2 Tuさんのゲーム

 直近のオリンピアードの成績をもとに日本からW杯に初出場。オリンピアード選手のうち、5月の全日本選手権の成績をもとに、出場者にはTuさんが選ばれた。Tuさんの現地やSGMらとの写真は日本チェス連盟のサイトに掲載されている(リンクは上のと同じ)。 

 初日は白のTuさんのプレパレーションが生きる展開になったようだが、時間をかけつつも対応を誤らずにドローに収めたParavyan、これが2600クラスのGMかと私も画面越しに感嘆した。

 2ゲーム目はTuさんのSicilian Kanに対し白が端ポーンを早々突く手で、研究勝負というより、その場でいかに自分の研究や経験との比較検討&ポジショナルな考え方を構築できるかという勝負だろうか。優位に立ったParavyanだったが、Tuさんの渾身の勝負手が通り、一時ほぼ互角になった。しかし、Tuさんの誤算を見逃さなかったParavyanに軍配が上がった。

 0.5-1.5で敗れてしまったものの、国内チェス界でも盛り上がりがあっただろうし、今後また日本の選手が大きな大会に出場する礎になるだろう。

 

【日本代表応援】FIDE World Cup 2023 Round 1 Day 1|2023.07.30 - YouTube

 

3 オープンではCarlsen、女子はGoryachkinaが優勝

 タイトルを総なめにしてきたCarlsenだが、意外にもW杯は3位が最高順位だった。そして今大会、遂にCarlsenが優勝を手にした。Ivanchuk(ウクライナ)をはじめとした強豪選手を破り、決勝ではインドのPragに勝利した。トーナメント途中ではドイツの若手SGMであるKeymerにノックアウト寸前まで追い込まれたが、踏みとどまったのはさすがのCarlsen

 女子ではGoryachkina(FIDE)がこちらも初優勝。何度も危ない局面になりつつも、勝負手、決め手を与えない指し回しで土俵際でふみとどまった。

 両優勝選手は、新進気鋭の勢いある選手に勝っての優勝で、実力を見せた。

4 その他:個人的注目選手

 MVLはウズベキスタンの期待の若手の一人であるShindarovに敗れ、個人的には残念だった。Shindarovも遠からず2700を超える選手だろう。Shindarovはアタッカータイプのチェスをするので、今後も盤上の殴り合いをみてみたい。

 ドイツのBluebaumは、Titled Tuesdayというオンラインで毎週行われている大会でコンスタントに好成績を残しており、ヨーロッパチャンピオン経験者でもある。彼はTuさんを破ったParavyanに勝ち、インドのViditとブリッツまで激闘を繰り広げた。

 女子部門につき、オランダのRoebersは直前の別大会でも好成績を残しており、上り調子であったところ、その勢いを維持して勝ち上がった。評価値的な観点ではなく、「魅せる」とか「華のある」チェスの一つだろう。

 

【国外2】FIDE World Rapid Team Championship

 スーパースターばかりのチーム戦。ただ、一味違うのがアマチュアボード枠。錚々(そうそう)たるメンバーと並んで、大会スポンサー企業のCEOらが対戦し、その結果がチームの勝敗を決することもある。真剣勝負とエンターテインメント性が併存した大会だ(私も大富豪になってこの並びに入ってみたい…)。

 力強い指し回しをしたNepo、W杯の勢いのまま参加したPragなどがメンバーのWR Chessチームが優勝した。筆者は流行り病で動けなかったので、リアルタイムに色々確認できず残念だったが、以下のようなニュース記事を見るだけでも迫力を感じる大会だ。

WR Chess triumphs as inaugural FIDE World Rapid Team Champions

【国外3】その他

 British ChampではAdamsが無敗で優勝するなど、W杯の裏でも、SGMクラスが多く参加する大会があり、非常にアツい夏だった。W杯で敗れてしまった選手も、ヨーロッパやアジアの大会にそのまま参加するなど、さすがのストイックさ。

 

【補足】チェス国籍の移籍(興味がない人はスキップ推奨)

 日本語のコンテンツとして触れられているものがわずかであるため、個人ブログという位置づけを活用して私が書いてみようと思う。違う点などあればツイート等でご指摘ください。

1 チェス国籍

 昨今、様々な事情でチェス国籍を移籍する選手がいる。チェス国籍とは、法律などの国籍とは異なり、チェスプレイヤーとしての所属地(所属協会)というイメージでいいだろう。一般的なスポーツプレイヤーでも、自分が育った国とは別の国で代表選手になることを目にするが、それと似たようなつくりかもしれない。

 チェス国籍に関し、特に近年では戦争の影響がある。FIDEは現在2か国の国旗を掲示することを禁止しており、当該国の選手は大会参加する場合は、基本的にFIDEの旗で参加することになっている。

 FIDEの旗を使った従前の例としては、現在フランスの選手で当時イランの選手であったFirouzja Alirezaのケースがあった(※概要としては、イランの選手はイスラエルの選手と対戦することが禁止され、もし当たった場合は事実上棄権することになる)。FIDEの旗は何等かの事情で出場が困難だったり問題があったりする選手が、大会に出場できるようにするための救済的なものである。

 加えて、今回の件についてFIDEのレーティングリストを観ると、①大会ではFIDE旗で参加しているが当該国の国旗が表示されている選手と、②レーティングリスト上でもFIDE表記になっている人がいる。①の選手はSNS等を見ていてもスタンスは人によるという感じだが、②の選手は現状につき中立を明示している選手であろう。

 なお、国旗を掲示しない等の形式は国際的スポーツ統括団体が採用している方法の一つであり、稀有なものではない。例えば、テニス(ATP)では、当該国の選手は国旗のない「個人としての参加」として大会参加を認めている。

2 移籍金と臨時措置

 そもそも、トッププレイヤーに関してはチェス国籍は無条件で変更できるものではなく、移籍にあたっては高額の費用を移籍前の所属地に支払う必要がある。例えば、So WeslyやLevon Aronianはいずれも現在はアメリカ選手として活躍しているが、以前はフィリピンやアルメニアの選手として活躍しており、アメリカに移籍している。

 そして、1で述べたの現状に関連し、一定の条件を満たした選手はヨーロッパへの移籍金の支払が免除されるという臨時措置が設けられた。

 この措置に基づき、チェス国籍の移籍が増え、強豪マスターが続々と各国に移籍している。例えば、2021年女子W杯優勝のKosteniuk Alexandra(レーティング女子7位)はロシアからスイスに移籍。同じくロシアの選手であるFedoseev Vladimir(レーティング61位)はスロベニアに移籍。最近では、イングランドにVitiugov Nikita(2700オーバーのSGM)が移籍した。すでに10人近くがこの制度を用いて移籍している。

3 さいごに

 チェスは国際的な競技としての魅力がある一方、政治的事項と全く無関係には進められないという難しさも一面では存在する。上記に述べたほか、先日のW杯でも開催地を危惧したアルメニア及びアルメニア出身の選手が出場を辞退した。多くのプレイヤーが盤外のしがらみのない状態で対局できる世界になることを祈るばかりだ。

 

【国内1】女子・シニア選手権

1 女子選手権の優勝は坂井さん

 女子選手権は、オリンピアード代表選考も兼ねている。坂井さんが6戦全勝で圧巻の優勝。坂井さんは過去に何度も日本代表として出場している選手だが、女子選手権は初優勝のようだ。内容も配信を観た限り、他の選手の追随を許さない手堅い指し回しで、実力を示しているように見えた。

 2位の三津山さんは前年の優勝に引き続き活躍し、若くして日本の女子トップを担っている(※昨年の優勝で2024年のオリンピアード女子代表は内定している)。山田選手など配信ボードに登場した選手は初戦で格上に良いところまで迫っており、今後のさらなる活躍に期待だ。

全日本女子チェス選手権2023 -結果 | 日本チェス連盟

2 シニア選手権の優勝はJonesさん

 FMのタイトルを持つJonesさんが無敗で優勝。去年のチーム選手権にも出場していた方で、80代(!)の方のようだが、チェスは年齢では判断できないことを証明している。

 なお、チャンピオンの称号はチェス日本国籍者に与えられるため、優勝者(Jonesさんはチェス国籍はアメリカ)とは別に2位の真鍋さんがその称号を得る。筆者も現地で1日だけ観戦したが、レート格上にドローを取ったりアップセットしたりするゲームがいくつもあり、見応えのある展開だった。

 

全日本シニアチェス選手権2023 -結果 | 日本チェス連盟

3 その他

 今回、配信ボードが4つ(女子2、シニア2)で、普段は配信ボードに中々登場できない方々もおり、当事者も観戦者も新鮮だったのではないか。配信に使うDGTボードは円安の影響もあってお高くなっているので、買うのは大変だろうが、現状できることとして少しでも多くの対局が公開されることはありがたい。

【国内2】全日本チームチェス選手権(全般)

1 概要

 昨年は感染対策による制限もあり、観戦などが制限されていたが、久々のチーム戦ということもあってか盛況だった。今年はさらに規模を拡大し、全48チームで200人以上の選手が参加。おそらく過去最大の国内チェス大会だろう。会場もきゅりあんの大きなホールを丸々使う、海外大会でよく見るスタイルだ。

2 スリルのあるチーム戦

 開始前に公開されたChess-Resultsのメンバーリストには、突出した2チームが結成されていた。リスト1のOsaka Club A(平均2262)とリスト2の8×8 Blunders(2104)が平均レートが突出し、4番ボードまで2000クラス。そして、当日は4人チームのBlundersの方が一人病欠をされたこともあり、多くの人がマスター4人を含む大阪Aが問題なく優勝すると思っていただろう。

 しかし、実際は最終戦まで3チームに優勝の可能性がある状況になり、チェス及びチーム戦のスリルを観ている方々も味わえたのではないか。最終的には勝った方が優勝となるカードで大阪Aが慶應OBチームを破り、貫録の優勝。

 

全日本チームチェス選手権2023-結果 | 日本チェス連盟

3 運営の方々に対する感謝

 規模の大きい大会の運営は、準備から当日まで非常に骨の折れるものだ。私も、ほぼボランティア状態で、別の競技の運営をやったことがあるが、明示的に感謝される機会が少ない一方、しっかり行うのが当たり前という参加者の目線もあり、思った以上に大変だった経験がある。

 日本チェス連盟に関しては、以前にボランティアスタッフを募集していたことを考えると、仕事や学業をしつつ運営の仕事もしている人が支えているはずである。日本でよりメジャーな競技(例えば囲碁将棋)では、会社でいうところの従業員が一定数おり、日々暮らせる程度の収入も得ているのと比して、チェスでは各スタッフの義務感や日本チェス界を良くしたいというモチベーションによって支えられている部分が多いはずだ(連珠などもそうなのかな)。

 そんな中で、チーム戦という大規模で様々な層が集まる、真剣でありつつもお祭りのような大会を開催されることに感謝が尽きない。

個人的国内外チェスニュース6(7月投稿分)

 

※間隔が少し空いい蓄積してしまったため、おおまかな部分多いです。

 

【国外1】トップレベルのチーム戦(Global Chess League)

1 概要

 ドバイで開催された大会で、6チームの総当たり。各チームのトップはCarlsen、Anand、Nepomniachtchi、Aronian、MVL、Dudaといった超トッププレイヤー。各々のチームに2700オーバーのGM、女性トッププレイヤー、ジュニアトッププレイヤーなどが加わり、6人チームで戦った。自分も大富豪になってこのような夢のある大会を開いてみたいものだ。

 

2 結果

 Aronianが率いるTriveni Continental Kingsチームが優勝した。MVL率いるチームとの決勝戦においては、両チーム譲らず、チームの命運はBjerre(デンマーク)対Shindarov(ウズベキスタン)の10代プレイヤーどうしの対決に委ねられた。この大会の同一のカードでは、Shindarovが無敗だったが、最後の最後にBjerreが奮起し勝利。見事チームを優勝に導いた。

Triveni Continental Kings win the inaugural Global Chess League

 

【国外2】女王を決める戦い(FIDE Women's World Championship

 7月5日に世界女王を決めるマッチが始まった。現王者のGM Ju Wenjun(中国)にGM Lei Tingjie(中国)が挑戦する12ゲームマッチ。

 初戦はRuy LopezのBerlinという形になった。この定跡は、展開によってはすぐにドローっぽくなってしまうのだが(※もちろんGMクラスの話で私たちレベルではミスる)、白のLeiが工夫をし、ポーンを捨てる代償にビショップペアを持つ変化に入った。このゲームはドローとなったが、Leiの積極的なプレイスタイルは目を惹くものがあった。

 ドローが続いたマッチで初めにリードを奪ったのは挑戦者のLeiだった。白番でItalianという定跡を採用し、リードを奪い勝ち切った。ドローを挟んだ後、Juが星を返し、マッチは最終戦までもつれこんだ。

 最終戦は白番のJuは信頼を置いているd4定跡を選択。アンバランスで繊細な局面になり、双方拮抗したまま進めたが、エンドゲーム間近でポーンの形を変えたLeiの一手が疑問手に。これをしっかり咎めてそのアドバンテージを守り切ったJuが最終戦に勝利。4連覇を達成した。

 

【国外3】Rapid&Blitz大会、Carlsenが圧巻の指し回し

 2か月前にポーランドで開催されたRapid&Blitzにつき、今度はクロアチアで開催。今回も錚々たるメンバーで、同様にラピッド9試合+ブリッツ18試合を行った。

 ラピッドでは、以前世界王者戦で火花を散らしたCaruanaがCarlsenに勝利するなど、アツい展開がいくつもあった。Rapid終了時点ではCaruanaとNepoが同率1位に。

 しかし、前回のRapid&Bilitzと同様に、Carlsenがブリッツで本領発揮。世界のトッププレイヤー相手にドローをも許さぬ連勝を重ね、ポイントを積み上げた。RapidとBlitzを併せた総合スコアではCarlsenがトップに立ち、再び優勝を決めた。

Magnus Carlsen wins 2023 SuperUnited Rapid & Blitz

 

【国外4】W杯の組み合わせが決まり、1回戦スタート

1 概要

 日本からTuさんが出場することが話題になったW杯。7月上旬に大会の組み合わせが発表された。日本チェス連盟のサイトに、概要等が記された応援ページが公開されている。対戦相手の情報なども更新されており、日本語で記載されている点で貴重だろう(英語読むの大変勢の感想)。

FIDE World Cup 日本代表応援特設ページ | 日本チェス連盟

 

 1回戦は非シード選手とはいえ、2600オーバーのGMがたくさんおり、上述したShindarovのような選手もいる。Tuさんの初戦の相手も明らかに強豪だ。

 

2 国際的な事情との兼ね合い

 出場選手のうちFIDEの国旗の選手は、ロシアの選手かベラルーシの選手である。昨今の事情から、各スポーツ界で行われているのと同様に、参加方法や国旗表示の可否が定められているため、このような表示となっている。

 関連して、一定レベルのプレイヤーがチェス国籍を別の国に移すには、通常は高額の移籍金を払う必要がある(引き抜き抑止?)。しかし、最近では上記に関する場合の特例措置でヨーロッパへの移籍は、移籍金が免除になっている。この影響もあってか、チェス国籍を移す選手も複数出ている。

<一例>

Kirill Alekseenko Leaves Russia, Becomes New Austrian Number One - Chess.com

 

 また、一部の国の選手は開催地との兼ね合いで今回のW杯に不参加ということもあった。

 このような難しい点はある一方、無事参加することになったIvanchuk(ウクライナ)のほか、Svidler(FIDE)やGelfand(イスラエル)といった現役のレジェンドも参加しており、往年のファンにも楽しみやすい大会だろう。

 

【国内1】ジャパンチェスクラシック神戸

1 概要

 日本チェス連盟主催の国内のグレードの高い大会が、東京以外で行われるという点で、発表時から注目が集まっていた。加えて、定員が埋まった後に追加募集もされ、結果的に80名近いプレイヤーが参加した。南條さん、小島さん、青嶋さん、Tuさんをはじめとしたマスター陣も多く出場し、レベルの高い大会となった。

 最近行われた全日本チェス選手権は5日間9ラウンドだったが、本大会は4日間7ゲームゆえ、同ポイントの選手が増えてタイブレーク勝負になる可能性が相対的に高い。上位陣はポイントを削られないようにしたいところだろう。

2 FM青嶋さんが優勝

 上位陣でもしのぎを削る戦いに。オリンピアード代表も務めたBibby Simonさんは、小島さんに勝ち、青嶋さんからドローなど、入賞は逃したものの、さすがの実力を示した。

 最終戦の小島-青嶋戦につき、青嶋さんが勝てば優勝確定だが、ドロー以下なら他者も優勝の可能性があるという状況。小島さんらしいプレーでリードを奪ったが、クイーンエンディングになり最終的にはドローになった。

 最終戦を制した南條さんが同一ポイントに並んだが、タイブレークの差で青嶋さんに軍配が上がった。全日本に引き続き、タイブレーク(つまり対戦相手の成績など)で順位が決まる白熱した戦いだった。

ジャパンチェスクラシック2023-結果 | 日本チェス連盟

【大会実況】ジャパンチェスクラシック2023 in 神戸 第7ラウンド | 2023.07.17 - YouTube

3 その他

 本大会では、10代の選手をはじめとする若手の活躍が目立った。中継ボードに現れたなかった方の中でも、レート2000クラスの選手をアップセットするなど、顕著な活躍だ。今後、各々の実力も全体のレベルもさらに上がるだろう。

 SNSをみる限り楽しんだ選手が多かったようで、今後また大きな大会が首都圏以外で開催される可能性があるかもしれない。運営の皆様、お疲れ様でした。

 

【国内2】各クラブでラピッド公式戦

 赤羽では先月に引き続き7月上旬に行われ、8月も行われるようだ。加えて、月末には中野でも行われ、来月は川崎でも予定されており、クラブ主催のラピッド大会が増えている。最近では、クラブの公式戦も満員御礼になっているのを見かける。

 様々な業務を行っているであろう日本チェス連盟が、高い頻度で大会を行うことは人的なリソース面で現状大変であろうから、各クラブが主催となって公式戦(や非公式戦)が積極的に行われることは良いことだと思う。

 新しいチェスファンを増やすことは普及の面でもちろん重要だが、興味をもった人をチェスというコンテンツに引き留めることも、連盟かクラブかを問わず重要な目標だろう。

 

【国内3】GM同時対局

 8月上旬にGMのレクチャーや同時対局が首都圏&京都で開催される予定だ。筆者もどこかの日程で参加できれば感想を共有しようと思う。

 最近は他の若手IMの同時対局も開催され、この手のイベントも活気が出てきている。日本にいても中々対局できない相手だろう。飛行機代を使って海外に行くより安いのは間違いないし、迷っている方は参加していると良いかも。

「Meet GM Shoker!」同時対局 & ミニレクチャー | 日本チェス連盟

個人的国内外チェスニュース5(2023年6月投稿)

 

【国外1】Superbet Rapid&Blitzポーランド大会、Carlsenが優勝

1 大会のおおまかなシステム

 本大会は、10人のプレイヤーが2種類のタイムコントロールで戦う。最初の数日はラピッドで総当たりの9ゲーム、その後にブリッツで総当たりの18ゲーム(各相手と白番&黒番の一試合ずつ)を行う。獲得するポイントは、

・ラピッド:勝ち=2pt、ドロー=1pt、負け=0pt

・ブリッツ:勝ち=1pt、ドロー=0.5pt、負け=0pt

 上記のポイントを合算し、27ゲーム全勝すれば36pt。最多ポイント獲得で優勝。

 

2 Rapid部門はDudaが制覇

 大会序盤はWesley Soがリードしていたものの、地元ポーランドの若手SGM(※スーパーグランドマスターの略:レーティング2700オーバーの一握りのGM)であるDudaがラピッド部門終了時点で暫定1位に。

 なお、Carlsenは初戦(黒番)で1.d4 b5!?という出だし。ポーランドで行われている本大会で「ポーリッシュ」というオープニングを使い話題になっていた。

 

 また、フランスのトップSGMの一人であるMVL(※Maxime Vachier-Lagraveの通称)は、普段は白番初手でe4を主軸にしているところ、d4でロンドンシステムを投入する等、内容面でも興味深いものが多かった。以下のリンクはラピッドの最終成績。

2023 GCT Superbet Rapid & Blitz Poland: Day 3 Recap

 

3 BlitzではCarlsenが制覇&全体でも優勝

 世界王者ではなくなったものの、やはり彼の強さは抜きんでていた。ラピッドでポイントを落とした相手に対してもどんどん勝ちを重ね、大会序盤で後塵を拝していたのが幻かのような活躍だ。Dudaを追い上げ、直接対決も制して総合ポイントで堂々の優勝。

Magnus Carlsen wins 2023 Superbet Rapid & Blitz Poland

 

4 <補足>世界王者戦に影響する大会

 世界王者戦の挑戦者は、Candidatesという8人のみが参加できるリーグ戦の優勝者である。その8人は、特定の大きな大会での優勝者やレート最上位者など。このうちの1人は、この大会を含む特定の大会の総合成績をポイント換算して決定する。そういう意味で、本大会は世界王者戦に向けても無関係ではない大会の一つだ。システムとしてはテニスでいうATPツアー&ファイナルが近いかもしれない。

 参考までに、直近の方式につき以下のFIDEのリンク(英語)を貼っておく。つい最近行われたNepo-Ding戦の王者決定戦は、王者のCarlsenが辞退する等のイレギュラーな事態が生じていたが、どのようなメンバーや仕組みだったか、雰囲気を感じてもらえば幸いだ。

FIDE World Championship Cycle

 

【国外2】往年のプレイヤー、SvidlerやAdamsの活躍がアツい

 伸び盛りの若手SGM、最年少クラスのGM、歴戦レジェンドGMが集まった大会で、P.Svidlerが優勝した。Svidlerは近年はchess24のYoutube解説を多く務めるなど、解説&コメントが達者であるとともに、長きにわたりトップクラスでの戦いを繰り広げている40代後半のプレイヤーだ。MVLとともにグリュンフェルドという対d4定跡を引っ張ってきた一人でもある(いまはこの定跡がレッドリスト入りかもしれないが…)。

 なお、同大会ではGelfand(イスラエル)とのこれまで何度も戦ってきたであろうベテラン対決もあり、往年のファンをも沸かせた。

 

 一方、English ChampionshipではM.Adamsが貫録の優勝。彼は50代ながらもレート2600代後半を維持しており、プレイスタイルも1.e4を中心とした、王道のチェスという言葉がぴったりのプレイヤーだろう。

English Championship: Michael Adams and Katarzyna Toma win titles

 

【国内1】国内チェス大会の人気増!?

 先日のゴールデンウィークオープンの満員御礼に引き続き、6月開催の全日本ラピッドについても開催1か月前に参加定員が埋まった。加えて、7月に神戸で開催されるジャパンチェスクラシックについても、80名の定員が5月時点で一度埋まった。レートを問わず、リアル大会に出たいというプレイヤーが増えることは、すばらしいことだろう。日本チェス連盟の方々や各クラブの方々、それ以外の動画配信等の独立した取り組み等、様々な方の普及活動の成果だろう。

 なお、従前の大会では、キャンセル枠の追加募集がされたケースもあるため、乗り遅れたけど出てみたい…!という方も、時折公式情報をチェックだ(もちろん、追加等があるかは状況次第だろうからダメ元くらいのスタンスで)。今回の神戸も追加枠が発表され、本投稿時点(6月半ば)ではわずかに残っていそう。

 

【国内2】東海オープン

 5月末に名古屋で東海オープン(全4ゲーム)が開催された。3.5ptで2人が並んだが、タイブレークの差でIMの小島さんが優勝し、新進気鋭の米満さんが準優勝。最後の試合は3戦全勝だった両者の直接対決で、ドローだった模様。このカードは全日本選手権でも発生しており、その際は小島さんが貫録を見せていたところ、今回はポイントを分け合う形になった。3位の岡部さんはユースの実力者で、今後さらに活躍するだろう。

NAGOYA CHESS CLUB

 

【国内3】全日本ラピッド

1 概要

 15分+インクリメント10秒のタイムコントロールで全9ゲーム。日本を代表するマスターから大会初参加と思われる人まで様々な方が集まった。

 なお、本大会はFIDE戦で、国際レーティングも変化する。ラピッド形式としては、名古屋チェスクラブの中部快速選手権も近年はFIDE戦だ。

 恒例になったYoutube配信につき、1日目は中継対象3ボードすべてがランダムで選ばれた。全日本選手権の東京予選では1ボードだけランダムボードだったため、その拡大版だろう。普段の配信では観れない組み合わせを見ることができた。偶然にも現役大学生のボードが中継に登場することが多く、新鮮な人も多かったかもしれない(レベルも高い)。

 

2 Tuさんが貫録の優勝

 スタート時点のリストトップのTuさんが8ptを獲得し優勝した。Tuさんは2022年のオリンピアードの代表選手であり、直近の全日本選手権でも南條さんと優勝争いを繰り広げるなど、日本のトップを牽引するプレイヤーだ。同じくオリンピアード代表選手だった小林厚彦さんに8ラウンドで唯一の土を喫したものの(綺麗なタクティクスなので気になる人は配信をチェック)、他のトッププレイヤーを圧倒した。なお、この8ラウンドでは古谷さん(最終結果2位)が山田弘平さん(同3位)を破っており、白熱したラウンドだった。

【早指し日本一決定戦】全日本ラピッドチェス選手権2023 第8ラウンド | 2023.06.11 - YouTube

 Tuさんはこの夏に開催されるチェスのワールドカップに日本代表として出場する。ワールドカップは、トーナメント方式。タイブレークなどの難しいことはせず勝てば進み負ければそこまでというシステムだ。上位に食い込めば、上述のCandidate(世界王者戦の挑戦者決定戦)に参加できるため、日本勢としてはかなり久しぶりに世界王者への途が拓かれた。

個人的国内外チェスニュース4(2023年5月投稿)

【国外】激闘の末、王者はDingに

1 ドロー?

 なんといっても今回はこの話題。現在はレーティング制度が存在するものの、伝統的なタイトルにおいて王者になることは非常に名誉であり、影響も大きいことは間違いないでしょう(もちろん賞金も大きい)。

 チェスにおいては、トップ間の戦いでドローは付きもの。一方、将棋でいう千日手は引き分けにはならず指し直し、囲碁では半目単位のコミがあります。この点でチェスは、ドローという結果をめぐる戦いにおいて、戦略性が異なるでしょう。近年行われたチェス世界王者戦においても、ドローは頻発しました。クラシカル(=長い時間での対局)で最長14ゲーム、14ゲームで決着がつかなければラピッド(=クラシカルより短い時間での対局)という流れの中で、実力の点のほか様々な戦略により多くのドローが生まれ、どこでどのように勝負をつけにいくかという側面がありました。

 しかし、今回のNepo-Dingの王者戦は上述のような近年の傾向とは一線を画するまさに「殴り合い」でした。

 

2 14ゲームを終えて両者譲らず

 口火を切ったゲームもRuy Lopezという大きなくくりでは想定されていたものの、Delay ExchangeというGMクラスでは中々目にしないラインをNepoが準備。この試合はドローになったものの、熱い戦いになることが予見されました。

 一方で、Dingもその後のゲームであまり見ない斬新な手、構想及び普段は使っていないオープニングを次々披露。Dingのこれまでのイメージ(棋風?)になかったものでした。おそらく彼の陣営にはRapportという興味深い構想をよく披露するSGMがおり(もちろんウルトラ強い)、彼の力もあったと思われます。今までからは想定できない展開に、リアルタイム解説陣営や世界中の視聴者の注目を浴びました。

 このマッチで先にリードを奪ったのはNepo(しかも黒番)。その後いかに取られた分のポイントを返していくか…という展開かと思いきや、双方が勝ったり負けたりする凄まじいマッチとなりました。内容もエクスチェンジサクリファイスが出てきたり、時間切迫に陥ったり、シーソーゲームになったり、話題に絶えないものでした。

 先に王手をかけたNepoは有利なゲーム運び王者目前の状態に至ったものの、回復が困難なタイプのブランダーを指してしまいました。追いついたDingも最後はドローとなり、14ゲームでは決着がつかず(下記は第14ゲームの全体ハイライト動画、英語)。

Ding vs Nepomniachtchi - Game 14 HIGHLIGHTS - YouTube

 

3 ラピッド最終戦、勇敢なドロー回避からの決着

 ラピッドの4戦は、3ゲーム目までは双方にわずかなチャンスは生まれるものの、いずれもドローに。ラピッド最後の4ゲーム目、これがドローならさらに短い持ち時間のブリッツで決着というところ。

 白のNepoはe4から再びRuy Lopezに構え、序盤からアイデアを駆使。終盤に、連続チェックでドローになるかと思われたところで、チェックを受けていた側のDingが勝負に出ました。一見、指しにくい手であったが、結果的にその後にNepoのミスが出ました。さらにその後にNepoに一瞬ドローチャンスが訪れたものの、最後はパスポーンを使ってDingが勝利して王者の座を手にしました。おめでとうございます。

 また、プレイヤーの一人としては、最後のゲームで状況が悪くなったNepoの手が震え、駒を落としてしまったところ等は、非常につらいものがありました。勝負の側面ですね…

 なお、各ゲームの局面解説については、FM山田さんが日本語で詳しく解説している動画があります(以下のリンク)。FIDE公式にあるDubovの解説(英語)は個人的には面白いですが、手の指摘が速く内容も高度な点が多いので、発展編として興味がある方は観るとよいかも。

新世界チャンピオンはDing Liren! | Nepomniachtchi - Ding Liren World Chess Championship 2023 | タイブレーク日本語解説 - YouTube

GM Daniil Dubov analyzes Game 14 - Ding vs Nepomniachtchi - YouTube

 

【国内1】全日本チェス選手権、優勝はIM南條さん

1 概要

 この大会はゴールデンウィークをすべて使う伝統的な大会であり、日本では数少ない一定の出場資格が必要な大会。具体的にはシード基準のいずれかを満たした選手(各地の予選で勝ち抜いた選手を含む)に出場権があります。

 今回は70人近い参加者がおり、トップ3ボードのゲーム様子はChess.com及び日本チェス連盟公式Youtubeにおいてリアルタイムで観ることができました(Chess.comに関しては検索可能、Youtubeに関してはアーカイブも視聴可能)。Youtubeにおいては多くのゲームで実況解説がついています。

 参加者はオリンピアード出場選手や過去のチャンピオン経験者等、重厚な面々です。

【ライブ配信】全日本チェス選手権2023 第8ラウンド | 2023.05.06 - YouTube

 

2 混戦の末、最後はタイブレークで決する

 南條さんが6ラウンド(3日目)まで全勝でトップを走り、誰がその牙城を崩せるかという状況でした。その後、Tuさんが南條さんに勝ち、小島さん、青嶋さん、Alexさんを含め、トップ争いは混戦になりました。

 最終ラウンドまでチャンピオンが決まらない白熱した戦いになりましたが、同点ながらタイブレークでTuさんに勝った南條さんが優勝。おめでとうございます。南條さんは、3月の神奈川選手権が久々のOTB大会でしたが(※レートが高くてもアクティブプレイヤーでないとシードはとれないため予選に出る必要がある)、権利獲得し見事全日本チャンピオンになりました。

 また、最終的には入賞者全員が全日本チャンピオン経験者のマスター陣でした。私も参加者の一人として一矢報いたかったのですが、さらにトレーニングを続けて今後のチャンスを狙いたいです。

 さらに、例会や大会に出ている方や情報をチェックしている方はご存知かもしれませんが、大学生やユースに強い方が多いと思います。彼らが全日本などに出場するのみならず、高レート帯からポイントを得ており、その活気も素晴らしい限りです。

 最後に、私はお酒は飲めないのですが、誰かにお酒をプレゼントする際はアルゼンチンワインをまずは検討したいと思います。

全日本チェス選手権2023 -第24回 アルゼンチンカップ-結果 | 日本チェス連盟

 

3 全日本その他

 今回の全日本の棋譜は公開される可能性もあるようです。せっかくなので、書くモチベーションが保てていれば?、私もいくつかピックアップして、当該ゲームの際に考えていたことや、その前提としてどのような準備をしたか等を書くかもしれません。私自身はマスター称号ももっていない一介のプレイヤーにすぎませんが、この記事をわざわざ見てくれている方が、自分に合った強くなるための機会や学習方法について考えるきっかけになればと思います。

 

【国内2】6月のラピッド戦はFIDE戦に!

 以前から発表されていた6月の全日本快速は、今年FIDE戦になるとの発表がありました。国内Rapidレートとは別の、RapidのFIDEレートがつく機会は中々なかったと思うので、さらに日本チェス界が一歩進んだといえるでしょう。エントリーリストをみると、海外大会に参加したことがある方はFIDEのRapidレートを持っているようですが、多くのプレイヤーはURのようです。全日本やゴールデンウィークオープンで活躍した選手もおり、最初の組み合わせを含めて注目ですね。

 

【国内3】日本からWorld Cupに出場者!?

 チェスにもワールドカップがあります。大づかみとしては、ガチガチのトーナメント方式で、当たった相手と白番と黒番を順に指し、ポイント差をつけられたら勝負がつくものです。世界王者戦形式の短いバージョンを各相手と行うイメージでしょうか。

 チェスのワールドカップは、将棋や囲碁ならタイトル戦の一つ、テニスでいうところの四大大会の一つクラスというのが私のイメージです。出たいといってすぐ出ることができるような大会ではありません。歴代優勝者をみても、名だたるメンバーですし、優勝すればNew in Chess Magazineの表紙でしょう。

 このワールドカップに日本から1人出場できるかもしれないとのこと(全日本選手権での閉会式情報)。昨年のオリンピアード(オープン)の成績をもとに出場枠が71位まで与えられるようですが、日本はなんと71位!!!で上記の参加権があるようです。暫定的な情報だったので、詳細は今後の公式HP等の情報を待ちましょう。

個人的国内外チェスニュース3

【国外1】The American Cup

1 オープン部門(GroupA)はHikaruが優勝

 The American Cupはアメリカのセントルイスで行われる大会。グループAは

・Hikaru Nakamura(2768)

・Fabiano Caruana(2766)

・Wesley So(2761)

・Levon Aronian(2745)

・Leinier Dominguez(2743)

・Sam Shankland(2710)

・Ray Robson(2702)

・Sam Sevian(2687)

アメリカの層の厚さが伝わる凄まじい面々。一般に、FIDEレート2700オーバーのGMをSGMと呼ぶことがあるが、ほとんどがSGMだ。彼らのプロフィールや細かいルールが気になる人は英語の公式サイト(以下)や各サイトの選手ページを参照してほしい。

https://www.uschesschamps.com/2023-american-cup/overview

 クラシカル(90分+1手30秒追加)からはじめて、決着がつかなればラピッド(25分+1手10秒追加)というように、決着がつくまで次第に時間を短くするスタイルで行う。プレイヤーは大変な一方、観る側としては同一カードで多くの試合を観戦できる可能性もある。

 決勝戦はHikaru Nakamura-So Wesley戦になり、3ドローの後、4ゲーム目の中盤でクイーンをトラップしたHikaruが優勝。優勝賞金5万ドルを手にした。上記の試合方式ゆえ、同一カードで多くの熱戦があり、同一カードならではの駆け引き(直前と同一のオープニングにするか等)もある。超ハイレベルの中でも色々なスタイル及びオープニングがあるため、プレイヤーなどに興味がある人を含め、いくつか棋譜をみてみるといいかもしれない。

 なお、この出場選手のインタビュー等が載っているセントルイスチェスクラブのYoutubeアカウントには、すさまじい数のチェス動画がある。40分くらいの動画が多いが、オープニングからエンドゲームまで様々な講師による様々な内容の動画が公開されている。とてもありがたい。海外経験がない私は、英語を聞き取れることができるところだけでも必死に聞いているが、講師によっては話すスピードがとても速い。動画の中でも、GMセイラワン氏のものはゆっくり話しており、英語に自信がない人でも比較的聞きとりやすいと思う。

2 女性部門はIrina Krushが優勝

 女性部門も一番レートが低い方で2300と非常にレベルが高い戦い。レートが一番高く実績も抜群のIrina Krushが優勝を決めた。なお、彼女は現在行われている世界王者決定戦のライブ解説動画(FIDEのアカウント)において、Anandと共に実況解説をしている。加えて、女性部門に出場しているAlice Leeは13歳でレートは2300後半。この大会の直前にあったオンライン大会では2700クラスにも一発入れており、今後も快進撃が続く可能性があり要注目だ。

 

【国外2】女性王者決定戦にはLei Tingjieが進出

 オープンの世界王者戦真っ最中だが、こちらも注目だ。女性の王者は現在Ju Wenjun(中国)で、その挑戦者を決める最終戦が行われた(Women's Candidates Final)。Lei TingjieとTan Zhongyiが勝ち残り、中国の2500オーバーのGM対決に。難解なエンドゲームの試合もあったものの、Leiがマッチに勝ち、挑戦権を手にした。この王者戦は夏に開催予定。

Lei Tingjie wins the Women's Candidates Final 

 

【国外3】オープンの世界王者戦、進行中

1 英語解説

 現在Nepo-Dingの世界王者戦が行われている。FIDE chess、Chess.com、Chess24などなど多くのYoutubeチャンネルでライブ配信&解説がされている上、アーカイブで視聴可能。画面のみやすさとしてはChess.comが良さげだが、解説陣の英語が筆者にとっては速くて追いつけない…その点ではFIDEの方がゆったりめだが、画面はちょっと見づらい。一長一短という感じだが、無料でSGM解説を知ることができるのはありがたい限り。興味がある方はいくつか試しに観て、合うものを視聴しましょう。

 ライブ解説のほかに、Dubov(Carlsenのセコンドも務めた才気あふれるSGM)が各ゲームの振り返り解説している動画もある。

GM Daniil Dubov analyzes Game 4 - Ding vs Nepomniachtchi - YouTube

2 日本語解説

 また、ゲームの翌日にはJCF(旧NCS)の公式チャンネルに山田さんの日本語解説がアップされている。ゲーム全般やプレイヤーの特徴を総覧することができる上、おすすめ。日本語で解説されている動画はほかのチェスチャンネルにもあるため、より深堀りしたい方はそちらもぜひ。

ついに開幕!世界王者はどちらの手に?!| Nepomniachtchi - Ding Liren World Chess Championship 2023 | Game1日本語解説 - YouTube

 

【番外】Carlsen、オンライントーナメントにおいてマウススリップで敗退

 Hikaruとの対局でドローっぽいエンディングに差し掛かった。とはいえ、クイーンエンディングという事故率が高そうな場面。Carlsenは直前に良い感じになったが…

 

これは発狂ですね…(しかもこれで決着に)。

 

【国内1】全日本選手権の予選、すべて終了

 3月末の土日に、複数の大会が行われ、全日本選手権の予選が終了した。その一部を紹介したい。

 神奈川選手権は川崎チェスクラブが運営する2日間6ラウンド制の大会。古谷さんが5ptで優勝。キャンセル等もあったようだが、最終的にはIMの南條さんも参加しており、予選としてはレベルが比較的高そう。筆者も現地でいくつかゲームをみたが、レートが1000前半やURの人の中には2000代からポイントを奪う等かなり強い方もおり、熱戦。観て勉強になるゲームが多かった。

 西東京は1日4ラウンド。2日間参加できない人には行きやすかった一方、神奈川などと比べると既に権利を持っている人が少なく、権利を狙う人にとっては大変な大会だったようだ。

 また、東北も全日本を狙うには最終日とあって遠征の方々もおり、白熱した模様。最後のゲームにおいては、会場都合でドローになったゲームがあったようだ。

 ゴールデンウィークまで1カ月を切り、全日本選手権及びゴールデンウィークオープンが近づいている。前者も選手が出そろってきた。後者は満員になり盛況(※東京チェスではキャンセル分が再募集されたため、逃した人は念のためツイッター等の公式情報をこまめにチェック)。アクティブプレイヤーが増えることはとても良いことだと思う。

 

【国内2】全日本ユース及びカデッツ開催

 両大会が4月上旬に開催された。公式Youtubeには上位3ボードの中継があり、アーカイブも視聴可能だ。実況及び解説もわかりやすい。近年は大会に参加する若いプレイヤーが増えており、かつ、実力もどんどん上がっているように感じる(どういう感じかは以下の実況動画なども参照)。彼ら彼女らの将来が楽しみである。

【18歳以下最強決定戦】全日本ユースチェス選手権2023 第1ラウンド | 2023.04.01 - YouTube

 

個人的国内外チェスニュース2

【世界1】WR Chess Masters、Aronianが優勝

ドイツで開催された上記の大会は、総当たり9試合。10人の超ハイレベルなGMでの戦い(一番低いレーティングでも2675!)。

(1)Benko gambit登場

 まず、チェスの内容面として、Nodirbek(※Tataという最近行われた大きな大会で大活躍した10代の若きスーパーGM、世界15位)が対Nepo(※前回の世界王者戦の挑戦者であり、この春に行われる世界王者戦も出場する、世界2位)戦で採用した定跡が話題になっていた。

 彼はベンコー・ギャンビットという定跡を採用した。この定跡は白のd4に対して、黒番ながら序盤早々ポーンを1個捨てて駒をどんどん展開していく定跡。クイーンズ・ギャンビットは『ギャンビット』と名を冠しているものの、後でポーンを取り返しやすい定跡だが、今回のベンコー・ギャンビットは、多くの場合に黒が早々と純粋ポーン損になる『ザ・ギャンビット』という感じの定跡だ。

 この定跡は高レート帯(特に長いタイムコントロール)では中々お目にかかれないものだ。その一方で、アマチュア等ではまだまだ人気という感じの定跡であるため、湧いたという感じである。この対局はドローになった。

 上記のほかにもプレイヤーとしては内容として好奇心の湧く対局もあるので、余力のある人は眺めてみても良いかもしれない。

 

(2)熱戦の末にタイブレーク

 9ラウンドを終えて、5.5ptが3人、4.5ptが1人、4ptが6人と全プレイヤーがひしめきあうような結果に。トップ集団の3人であるNepo、Gukesh、Aronianがタイブレークで10分+2秒のミニリーグを行い、Aronianが優勝した。途中までAronianはトップを走っており、Nepoに負けてタイブレークとなったものの、最後は彼の強さを見せつけた形だ。

The final classical standings of the #WRChessMasters are very unusual, with 3 players tied for 1st place, Wesley So in 4th on 50%, and 6 players in last place on -1! #c24live pic.twitter.com/9Zxv0tUYXk

 

 なお、Aronianは現在はアメリカ勢だが、もともとはアルメニア出身であり、アルメニアオリンピアード活躍の一端も担っていた。また、チェスのワールドカップトーナメントでも優勝経験がある等、これまでも著しい活躍をしている。私見としては、終盤であっても、勝ち方が複数あるときでもかっこいい選択肢を選ぶイメージが強いので、才気あふれるチェスをみたい人はNotable gameなどを見てみるといいかもしれない。

 

【世界2】Adams、相変わらずカッコいい

 Adamsイングランドの(大?)ベテランプレイヤーで、マスターの棋譜などで勉強している人は知っている人もいるだろう。有名な名局集であるマンモスブックにも彼の対局が載っている。正統派e4プレイヤーで以前ほどはトーナメントに出ていないものの、2600代後半という強さ。個人的に好きなGMの一人であり、新たな彼の棋譜を観ることができてうれしい限りだ。

 

 

 

【日本1】全日本選手権予選、続々と開催される

(1)概要

 中四国予選に引き続き、2月19日(日)には愛知チェス選手権及び神戸チェス選手権が開催、25日(土)~26日(日)には千葉選手権が開催された。

 今更だが、全日本選手権の位置づけを簡単に説明したい。全日本選手権は毎年ゴールデンウィークに行われる大会で、将棋における名人戦のような感じ。並行して、ゴールデンウィークオープンという大会も開催されており、いずれも国際レート戦(FIDE戦)である。ただし、全日本選手権の方は一定の出場資格が必要だ。この出場資格を得る手段の一つが、現在各地で開催されている予選の好成績者である。この各地の予選は、全日本選手権の予選でもあるが、一般的なNCS(日本チェス連盟)の大会でもあって、全日本に出る意思がない人も参加可能である。そのような参加者のグラデーションやご本人の都合によって、権利を獲得する結果を残した人でも辞退するケースがあり、その場合は参加資格が次の好成績者へとずれていくシステムだ。

 

(2)愛知チェス選手権 (詳細:NAGOYA CHESS CLUB

 各地域の結果を簡単にみていきます。まず愛知チェス選手権は、3.5ptで二人が並び、若森さんが優勝、そのほか3名が権利獲得。定員いっぱいの20人の参加者に対して、8人が1700オーバーという構成で、結構レベルが高そう。この大会に参加した篠田さんは、NCSのOPENRECのエンドゲーム講座の中で、この大会でのエンドゲームの一部を紹介しているため、興味のある人はチェックしてみるといいかも。

 なお、名古屋チェスクラブさんで行われた大会結果については、JCA(NCSより前の日本のチェス団体)の頃のものを含め、上記ホームページで確認できる。Chess-resultsがスタンダードになる前から独自にしっかり記録を残されていて頭があがらない。

 

(3)神戸チェス選手権

 chess-resultsによると、3.5ptで牧野さん、Jonesさん、松尾さんの3人が並んだようだ。参加した友人は、上記の入賞プレイヤーと指す機会があり、勉強になった模様。少なくとも現在の日本では、2000オーバーのアクティブプレイヤーはそこまで多くないため、OTBで真剣勝負できる機会においては、勝ちたいのは第一であるものの、長期的な目線では自分の糧になるのは間違いないだろう。友人のレートもきっと今後上がるに違いない。

 なお、夏には神戸でジャパンチェスクラシックという大会が行われる(

ジャパンチェスクラシック2023 | National Chess Society of Japan - NCS)。これも国際レート戦だ。すでに申込みが始まっている上、強豪プレイヤーも既に名を連ねているため、興味がある方は要チェックだ。

 

(4)千葉チェス選手権

 千葉は2日間6試合。定員まで申込みがあったようで活気のある大会であろう。優勝は前回のオリンピアード女子選手でもあった坂井あづみさん(5.5p)。2000オーバーの選手が5人いる中、2日目にトップを走り続け5試合目まで全勝だったようだ。付随して、彼女の参加している?せとうちチェスクラブも盛り上がりそう。

 千葉ではキッズの大会も何度か開かれているので、親御さんはぜひチェック。また、今回活躍された坂井夫妻のブログがあるので、興味ある人はみるといいかも(チェス夫婦 E&Aのチェスブログ)。

 

(5)東京チェス選手権

 最大規模の上記の予選で、70名程度の参加者で2日間6試合。早々定員になり、キャンセル分の受付もすぐに埋まったようだ。アクティブプレイヤーが増えるとはとても良いことだと思う。参加者もマスターからURの方まで非常に幅広い。この大会の上位ボードは局面配信(Chess.com)かつYoutube公式チャンネルで解説ありとリアルタイムに情報収集可能だった(アーカイブも閲覧可能)。

 優勝は全勝の長瀧さん。1月頃に行われたクローズドのラウンドロビン戦でも優勝しており、実力は確かであった。レートも2000に乗る見込みで、今後の活躍も楽しみだ。

 

【日本2】3月25日~26日、チェスイベント超充実

 神奈川チェス選手権、西東京チェス選手権、東東京チェス選手権、東北チェス選手権、北海道チェス選手権、川越でのGM来日イベント等々、ガチプレイヤーもエンジョイ勢も満喫できそうな充実度だ。選手権に関しては、2日制も1日制もあるので、日曜だけという人も行きやすそう。体が二つあれば選手権一つとGMイベントに行きたいところ。特に予定を決めていないチェス好きの人は絶好のチャンス、ぜひ楽しんでほしい(現場被りがきついという人もいるだろうが…)。