思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

個人的国内外チェスニュース4(2023年5月投稿)

【国外】激闘の末、王者はDingに

1 ドロー?

 なんといっても今回はこの話題。現在はレーティング制度が存在するものの、伝統的なタイトルにおいて王者になることは非常に名誉であり、影響も大きいことは間違いないでしょう(もちろん賞金も大きい)。

 チェスにおいては、トップ間の戦いでドローは付きもの。一方、将棋でいう千日手は引き分けにはならず指し直し、囲碁では半目単位のコミがあります。この点でチェスは、ドローという結果をめぐる戦いにおいて、戦略性が異なるでしょう。近年行われたチェス世界王者戦においても、ドローは頻発しました。クラシカル(=長い時間での対局)で最長14ゲーム、14ゲームで決着がつかなければラピッド(=クラシカルより短い時間での対局)という流れの中で、実力の点のほか様々な戦略により多くのドローが生まれ、どこでどのように勝負をつけにいくかという側面がありました。

 しかし、今回のNepo-Dingの王者戦は上述のような近年の傾向とは一線を画するまさに「殴り合い」でした。

 

2 14ゲームを終えて両者譲らず

 口火を切ったゲームもRuy Lopezという大きなくくりでは想定されていたものの、Delay ExchangeというGMクラスでは中々目にしないラインをNepoが準備。この試合はドローになったものの、熱い戦いになることが予見されました。

 一方で、Dingもその後のゲームであまり見ない斬新な手、構想及び普段は使っていないオープニングを次々披露。Dingのこれまでのイメージ(棋風?)になかったものでした。おそらく彼の陣営にはRapportという興味深い構想をよく披露するSGMがおり(もちろんウルトラ強い)、彼の力もあったと思われます。今までからは想定できない展開に、リアルタイム解説陣営や世界中の視聴者の注目を浴びました。

 このマッチで先にリードを奪ったのはNepo(しかも黒番)。その後いかに取られた分のポイントを返していくか…という展開かと思いきや、双方が勝ったり負けたりする凄まじいマッチとなりました。内容もエクスチェンジサクリファイスが出てきたり、時間切迫に陥ったり、シーソーゲームになったり、話題に絶えないものでした。

 先に王手をかけたNepoは有利なゲーム運び王者目前の状態に至ったものの、回復が困難なタイプのブランダーを指してしまいました。追いついたDingも最後はドローとなり、14ゲームでは決着がつかず(下記は第14ゲームの全体ハイライト動画、英語)。

Ding vs Nepomniachtchi - Game 14 HIGHLIGHTS - YouTube

 

3 ラピッド最終戦、勇敢なドロー回避からの決着

 ラピッドの4戦は、3ゲーム目までは双方にわずかなチャンスは生まれるものの、いずれもドローに。ラピッド最後の4ゲーム目、これがドローならさらに短い持ち時間のブリッツで決着というところ。

 白のNepoはe4から再びRuy Lopezに構え、序盤からアイデアを駆使。終盤に、連続チェックでドローになるかと思われたところで、チェックを受けていた側のDingが勝負に出ました。一見、指しにくい手であったが、結果的にその後にNepoのミスが出ました。さらにその後にNepoに一瞬ドローチャンスが訪れたものの、最後はパスポーンを使ってDingが勝利して王者の座を手にしました。おめでとうございます。

 また、プレイヤーの一人としては、最後のゲームで状況が悪くなったNepoの手が震え、駒を落としてしまったところ等は、非常につらいものがありました。勝負の側面ですね…

 なお、各ゲームの局面解説については、FM山田さんが日本語で詳しく解説している動画があります(以下のリンク)。FIDE公式にあるDubovの解説(英語)は個人的には面白いですが、手の指摘が速く内容も高度な点が多いので、発展編として興味がある方は観るとよいかも。

新世界チャンピオンはDing Liren! | Nepomniachtchi - Ding Liren World Chess Championship 2023 | タイブレーク日本語解説 - YouTube

GM Daniil Dubov analyzes Game 14 - Ding vs Nepomniachtchi - YouTube

 

【国内1】全日本チェス選手権、優勝はIM南條さん

1 概要

 この大会はゴールデンウィークをすべて使う伝統的な大会であり、日本では数少ない一定の出場資格が必要な大会。具体的にはシード基準のいずれかを満たした選手(各地の予選で勝ち抜いた選手を含む)に出場権があります。

 今回は70人近い参加者がおり、トップ3ボードのゲーム様子はChess.com及び日本チェス連盟公式Youtubeにおいてリアルタイムで観ることができました(Chess.comに関しては検索可能、Youtubeに関してはアーカイブも視聴可能)。Youtubeにおいては多くのゲームで実況解説がついています。

 参加者はオリンピアード出場選手や過去のチャンピオン経験者等、重厚な面々です。

【ライブ配信】全日本チェス選手権2023 第8ラウンド | 2023.05.06 - YouTube

 

2 混戦の末、最後はタイブレークで決する

 南條さんが6ラウンド(3日目)まで全勝でトップを走り、誰がその牙城を崩せるかという状況でした。その後、Tuさんが南條さんに勝ち、小島さん、青嶋さん、Alexさんを含め、トップ争いは混戦になりました。

 最終ラウンドまでチャンピオンが決まらない白熱した戦いになりましたが、同点ながらタイブレークでTuさんに勝った南條さんが優勝。おめでとうございます。南條さんは、3月の神奈川選手権が久々のOTB大会でしたが(※レートが高くてもアクティブプレイヤーでないとシードはとれないため予選に出る必要がある)、権利獲得し見事全日本チャンピオンになりました。

 また、最終的には入賞者全員が全日本チャンピオン経験者のマスター陣でした。私も参加者の一人として一矢報いたかったのですが、さらにトレーニングを続けて今後のチャンスを狙いたいです。

 さらに、例会や大会に出ている方や情報をチェックしている方はご存知かもしれませんが、大学生やユースに強い方が多いと思います。彼らが全日本などに出場するのみならず、高レート帯からポイントを得ており、その活気も素晴らしい限りです。

 最後に、私はお酒は飲めないのですが、誰かにお酒をプレゼントする際はアルゼンチンワインをまずは検討したいと思います。

全日本チェス選手権2023 -第24回 アルゼンチンカップ-結果 | 日本チェス連盟

 

3 全日本その他

 今回の全日本の棋譜は公開される可能性もあるようです。せっかくなので、書くモチベーションが保てていれば?、私もいくつかピックアップして、当該ゲームの際に考えていたことや、その前提としてどのような準備をしたか等を書くかもしれません。私自身はマスター称号ももっていない一介のプレイヤーにすぎませんが、この記事をわざわざ見てくれている方が、自分に合った強くなるための機会や学習方法について考えるきっかけになればと思います。

 

【国内2】6月のラピッド戦はFIDE戦に!

 以前から発表されていた6月の全日本快速は、今年FIDE戦になるとの発表がありました。国内Rapidレートとは別の、RapidのFIDEレートがつく機会は中々なかったと思うので、さらに日本チェス界が一歩進んだといえるでしょう。エントリーリストをみると、海外大会に参加したことがある方はFIDEのRapidレートを持っているようですが、多くのプレイヤーはURのようです。全日本やゴールデンウィークオープンで活躍した選手もおり、最初の組み合わせを含めて注目ですね。

 

【国内3】日本からWorld Cupに出場者!?

 チェスにもワールドカップがあります。大づかみとしては、ガチガチのトーナメント方式で、当たった相手と白番と黒番を順に指し、ポイント差をつけられたら勝負がつくものです。世界王者戦形式の短いバージョンを各相手と行うイメージでしょうか。

 チェスのワールドカップは、将棋や囲碁ならタイトル戦の一つ、テニスでいうところの四大大会の一つクラスというのが私のイメージです。出たいといってすぐ出ることができるような大会ではありません。歴代優勝者をみても、名だたるメンバーですし、優勝すればNew in Chess Magazineの表紙でしょう。

 このワールドカップに日本から1人出場できるかもしれないとのこと(全日本選手権での閉会式情報)。昨年のオリンピアード(オープン)の成績をもとに出場枠が71位まで与えられるようですが、日本はなんと71位!!!で上記の参加権があるようです。暫定的な情報だったので、詳細は今後の公式HP等の情報を待ちましょう。