思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

将棋の手筋の名称と前提条件①

0.本稿の趣旨

【注意】完全に趣味の世界で読んで強くなるものではありません。忙しい方は太字や下線部のみ読み、ご興味や余裕があれば詳細を是非読んでください。

※のついたところは直前の文章の分析・蛇足なので文脈的には飛ばして大丈夫です。

 まず、すぐに強くなりたいという方はこれを読む必要はないでしょう。本稿は既存の将棋用語につき、概念を分析するにすぎないためです。せいぜい、思考の整理または将棋を教える方にとっては教える際に他の概念と峻別する参考になる程度でしょう。

 

 将棋は、書籍や解説において、様々な専門的用語を用います。外国語のようなものといってもいいでしょう。用語の辞典は存在するものの、多くの辞典は、その会得は、意外と感性に頼られていると思います。典型的には、今回の「焦点の歩」であれば、①「焦点の歩」の典型例の図(あるいは次の一手)、②その手順による効果(駒得、効率の低下など)の説明がなされているものです。これをすぐに吸収できる人も少なくないです。しかし、単に飲み込むことが苦手な人あるいは追及することが好きな方は、大変かもしれません。そういう方は、たとえば複数人の教室を受講している場合は、個人レッスン等を受けていない限り、置いていかれることになります。

 

 プロになる方は、編入試験等の例外を除き、年齢制限の中で勝ち抜いた者だけです。その意味では、プロになるための勉強としては、速度・吸収力が重要であり、基礎的な部分においては既存のものが優れているでしょう(ソフト含め)。一方、アマチュアであれば、プロになるための手法と同じ必要はありません。考え方や、頭の中への箱詰めの仕方は柔軟にできるはずです。その一端として、将棋の概念や当然視されているものを分析することで、より深い理解を得られる(人がいる)のではないかと思い、気が向くたびに書くつもりです。

 

 最後に、以下は私の今日までの経験から生じた疑問及び考え方であり、当然にアマを含めた将棋界で有力な思考法ではありません。加えて、私自身、将棋が強いというわけでもありません。以上をご承知の上、普段の対局や棋書を読む際に、試行錯誤する(場合によっては立ち止まる・混乱してしまう?)契機になるかもしれないと思い公開する次第です。

 

 

1.手筋の名称?

f:id:befu_sgz:20191224032920p:plain

この一手、通称として何と呼びますか?

 いわゆる『焦点の歩』の一例です。入門書や様々な本で、『歩の手筋(使い方、テクニック)』といった紹介をされているのが通常でしょう。

 

将棋をはじめたばかりの方でも、本を読み進めたり、講師の方に教わっていれば知っているかもしれません。ある程度指した方はなじみ深い用語でしょうし、上記の振り飛車に対する典型的な場面はご存知かと思います。

 

有段者の方や上級者の方は、感覚的に、あるいはいままでの経験や論理からここで使うと判断できると思います。しかし、よく考えると、先に一歩損をする(捨てる)タイプの手筋です。ミスればただの駒損です。使う場面を見極めるのは、初心者や将棋を勉強して上達しようとしている方には容易ではないはずです。

 

 そこで、対局をこなして様々な場面で試す・手筋や次の一手の本を読む等々から、自分の経験を増やし、『こういうときは焦点の歩だけど、こういうときはやってはならない』とルールを作っていくことが多いのではないでしょうか。

※難しくいうなら『帰納的』に上達することが求められているでしょう。将棋は対局時には基本的に演繹的思考の積み重ねだと思います。序盤の定跡本や終盤の詰将棋は、まさに演繹的作業の蓄積です。

 

【疑問①】駒の効きが重なる焦点に打てば、すべて『焦点の歩』なのか?

【私の結論】焦点に打てば『焦点の歩』というわけではない。

f:id:befu_sgz:20191224041709p:plain

穴熊でよく見る手筋だが・・・?

第2図、一般に『たたきの歩(歩のたたき)』と呼ぶと思います。

よく考えると、香・桂・銀が効いてるから''焦点''ではあるはずです。

でも普通『焦点の歩』とあえて言わない。

つまり、『焦点の歩』は焦点に打つものだけど、焦点に打てば『焦点の歩』とは限らないでしょう。

※論理的には、AならばB、BならばAは真偽が変わる典型でしょう。

 

例)人間(→『焦点の歩』)であれば動物(焦点)であるが、動物(焦点)であるからといって人間(『焦点の歩』)とは限らない。

 

2.では焦点の歩とは何なのか

 将棋で用いる多くの用語は、『目的』ではなく、『結果・状態・現象』を示しています。将棋の本では、先に『結果・状態・現象』を表題で示し、それはこういう場面(具体例・例示)だと教えるものが多いです(※)。これを踏まえるだけでも、本の読み方や説明の聞き方は変わるのではないかと私は思います。例えば、『金底の歩』は、金の真下に歩を打った状態を示すもので、『何のために』するかは別の話です

 

※学校で習う現象の名前でも、学問の定義(概念)でも、結局はわかっている人のやりとりで使う便利な名称にすぎないことがあるでしょう。この『目的』や条件を、実戦や本の事例から学んでいく、あるいは無意識に感覚を得ていくのが伝統的なやり方でしょう。昔ながらの職人の技を目で盗めというのに近いものを感じます。

 

『焦点の歩』の条件は、上記の典型例から分析すると、

【条件1】 複数の駒が効いているマスに(前提場面)(広い意味での焦点)

【条件2】 歩をその効きに捨て(=無料)、取らせることによって(手段)

※第1図で▲2五桂がいれば、感覚的に『焦点の歩』ではないのは、「捨て」ていない

【条件3】 特定の駒の効きを遮断し又はずらす(効果)

は確実な条件でしょう。

 

しかし、これだけでは第2図(穴熊の端に歩を打つ図)でも全条件があてはまります。

何が『焦点の歩』に足りないのか。

 

私の仮説は、

【仮条件4】相手の応手後に最善であっても直ちに駒得等の優位に導く類型(3手目の効果)

ではないかと仮定しています。よりよい条件はあるかもしれませんがこれを仮説とします。

f:id:befu_sgz:20210503211341p:plain

上記は第2図の再掲です。

例えば、先手に5一飛がある場面であれば、△同銀とはせず、△同香が通常です(最善の応手)。

形を崩しても、3手目に、その歩により駒得等の効果を得るものではありません(¬『焦点の歩』)。

こう考えると、最善の応手でも得をするということが読めないと、『焦点の歩』かは判断がつかないことになります。

 

f:id:befu_sgz:20210503211510p:plain

概念的には上記になるのではないでしょうか。

 

f:id:befu_sgz:20210503211534p:plain

 第3図は純粋な『焦点の歩』、第2図は『焦点の歩』かつ『たたきの歩』に該当する部分(ベン図の重なる部分)。競合した部分は上記の条件を満たす限り、『焦点の歩』の概念が優先するという整理です。

 教える立場で考えるなら、突然「ここは『焦点の歩』だ」と教えるのは、結果から教えていることになります。この方程式を解から教えているようなものです。『焦点の歩』を伝授するには、駒得をするにはどうすればいいかといった目的的思考とともに伝え、これにより得する流れを『焦点の歩』ということを把握させることが最速なのではないかと私は考えます。『焦点の歩』、よく使うけどこういう条件を(できる人は)自然に身につけているのだと思います。