思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

棋書レビュー:『羽生の終盤術シリーズ』(浅川書房)

【棋力向上に対する必要性】★★★

【専門性】 ★★★

【読みやすさ】★★★

 

  1.  概要

     筆者の対局で現れた実戦の局面を示し、そこから1手ないし数手を読む問題集。2022年時点で合計3冊出版されている。

  2.  シリーズ全体について

     難易度は、他のブログやSNSにも記載があるように、3→2→1と考えて問題ない。したがって、3冊出版されている現在においては、級位者レベルであれば、上記の順のほうが読みやすい。シリーズ3冊目などは、アマ四段程度になれば、容易な問題もあるとは思う。ただし、30秒将棋その他の短時間に指し手を選択する場面が多いアマ将棋においては、寄せの手筋200などと併せて、思考プロセスの確認及び定着には十分役立つ。一方、シリーズ1冊目は、アマ四段程度でも、初見では難しいと感じる局面が多いと思われる。2冊目はその中間といったところ。

  3.  得ることができる内容

     シリーズ2及び3においては、いわゆる手筋本で紹介されているものを、具体的な局面の中で使う練習になる。副題において、『基本だけでここまで出来る』と書いてある通りである。
     『羽生の法則』シリーズや一般的な囲いの崩し方の本などで紹介されている手筋を、様々な駒が散らばっていたり、囲いがお互い崩れたりしている状況で、実際に選択肢に入れることができるようになる。例えば、この形なら大駒を捨ててでも玉を下段に落として勝つことができる、ということを手筋本(問題集)でマスターしていても、うまく使うことができていない人は多いだろう。そのような人には、一層の向上が可能であろう(☆1)。

    ☆1
    頭の中に入っている技であっても、当該局面でその使用可能性を認識していなければ、実際に使うことはできない。対局中の思考のオプションが増やすには、「何かあるかもしれない」と考える場面を増やす必要がある。その意味で、「ここであれって使えないかな?」と考える習慣づけになるだろう。

     シリーズ1においては、上記の内容に加え、より高度な思考を学ぶことができる。具体的には、終盤の入口やもつれ込むんでいるような場面で、局面のどのような部分をどう評価し、どのように組み立てる(=理想に持ち込む)かを、学ぶことができる。チェスでいうストラテジー(※直訳すると「戦略」であり、将棋でいう「大局観」と表現される一部。)に通じる部分がある。

     将棋においては、終盤の「大局観」(が良いor悪い)という感覚的な表現で片付けられることが多いところ、それを局面の評価や何が必要かという分析的な観点で記されているところに、学びが多い。

  4.  類似書籍との比較

     同種の内容を学ぶことができる書籍は、『戦いの絶対感覚シリーズ』(※羽生先生のものは2022年4月現在、装丁は変わっているものの再販されている。)や『読みの技法』、『アマの将棋ここが悪い』シリーズ、近年であれば『イメージと読みの将棋観』などが存在する。

     本シリーズの特徴は、局面の連続性にある。具体的には、他の書籍の多くは、この図面をどう評価するかという内容の中で、形勢や変化手順を記載している。一方、終盤の入口から必至や詰みに至る段階までの一連の流れを、思考過程とともに集中的に学ぶことができる。上記の本でもこのような箇所はあるものの、この思考過程の訓練に特化したものは稀有である。

     なお、私自身、アマの指し将であるが、「良い(とか一手勝ち)のは確かにそう思うけど、具体的にどういう考えでどうするねん!」と思うことが多々ある。そのような場面の補助になる本である。

  5.  感想等
     非常に読み応えのあるシリーズであり、何度も繰り返し読むことで、終盤の考え方を感覚化することができる。一方、上述のように、分析的な目線も養うことができる。
     出版されてから年数は経っているものの、日々変化する序盤などと異なり、原理的な終盤の考え方を学ぶことができる。類似書籍を所持していたとしても、シリーズ3冊目の試し読みなどをして、内容が理解できるレベルであれば、読むべき本といって過言ではない。