思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

チェス初心者にはイタリアンが良いと思っている人雑感

表題のように思うに至った理由及び経緯を以下に記したい。

 

0 筆者の属性及びチェス歴

 私は当初は純粋将棋勢で、ハンゲームやヤフーチェスがあった頃に、ルールを覚え、気分転換にやっていた。その後は、特にそれ以上のことはせず、将棋は細々続けている状態であった。さらにその後、チェスサークルが存在する大学に入ったため、そこで改めてチェスをしっかりやるようになった。大学在学中は大会にも時折出ていた。大学卒業後はしばらく別のことに打ち込んでいたが、最近また復帰しはじめたところである。

 

1 そもそも「初心者」にグラデーションがある

 ツイッター等で時折、初心者におすすめの定跡は何かという話題を見かける。これはチェスに限ったことではなく、将棋でも棒銀のあとはなにするかとか、囲碁でも同種のものを見かける。

 しかし、「初心者」は一種の評価であるから、人により想定されているレベルが違うことがあり、注意を要する。ここでは、いわゆる入門書をある程度読んで、ルールや駒のおおまかな価値がわかったり、簡単な1手メイトが解くことができたりすることを前提として、何回かゲームを最後までやったが、せっかくだししっかり取り組みたい(が、何をやっていいかわからない)くらいのイメージで「初心者」としたい。

 

2 私自身の経験について

 上述の通り、私は大学入学後にルール以上のしっかりしたことを学びはじめた。その際、同じサークルに私よりもはるかに強いプレイヤーがおり、彼にイタリアンを勧められた経験がある(なお、現在彼はトッププレイヤーの一角である)。私はシェフの専門性を信じて日替わりランチ頼みがちなタイプなので、こういうことは専門家に任せた方が思い、素直にイタリアンを教えてもらったり調べたりした。したがって、私が最初に意識的に触れたオープニングはイタリアンである。

 私はトッププレイヤーとはほど遠いものの、大会等で勝ち負けを楽しむことができる

程度に充実するレベルには達しているので、間違っていなかったのではないかと思う(??「私が証明です」)。

 

3 なぜイタリアンかを分析する

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 チェスのオープニングは膨大である。すべてを網羅することは早々できないし、趣味として向き合うような人には、好きなのをやってみればいいよと任せられても困る可能性が高い。好きな料理選んでいいよと言われても横文字ばかりで料理の中身が全然わからない。そこで、本人に特段の事情(※)がない限りは、このオープニングから学んだほうがいいということを教える側(特に指導者的地位)が持っていて損はない。

 

※ここでいう特段の事情は、将棋や囲碁などの別のゲームで序盤等の高度な技術や経験をもっていて、自分で好きな定跡を探すことができ、かつ、それが苦でないようなタイプを想定する。

 

3-1 理由① チェスの基本原理の習得ないし定着に有効

 

3-1-1 センター

 チェスで自分が勝ちやすくなる方法は種々にわたるが、「初心者」がまず定着させたいものの一つとして、『センター(の重要性)』がある。イタリアンはビショップ、ナイト、ポーンを使ってセンターの効きを増やしたり、センターに効いているポーンを支えたりすることを目的とする手が多い。このようないわば『自然な』駒運びを身に着けるには、もってこいなのではないかと思う。目標をセンターに入れてスイッチ。

 また、微差はあれど、黒がe4に対してd6やg6などを選んできたときに、とりあえずイタリアンみたいに組めば即死しないという応用も効きやすいと思う。

 

3-1-2 ビショップとナイトの動く回数

 キャスリングをするためにはこれらを動かす必要がある。上記とあわせて、ビショップとナイトをセンターに効かしながら+ピースを落とさずに+キャスリングの準備をするという、上級者が自然と行っていることを理解するのに明瞭である(当然Evans Gambitなどはここに含まれない)。

 一方、ルイは意外とチェスの基本原理と異なる動きをする。つまり、メインラインでビショップが3回動いてb3やc2に「最初から」「相手にポーンをつかせながら」「わざわざ」移動する。普通はこれらの駒を動かす回数は少ない方が良い。最初から例外を扱うのはためらわれる。

※ルイのこの動きについてはIMの小島さんも以前ツイッターで言及していた。

 

3-2 理由② 自分の動きをある程度固定化できる

 ピースを落としたり、f2をアタックされて負けたりという場合は別として、ルイではGMうしの対局でも見かけるベルリン等のラインが潜んでいて、白は細かく相手の動きに呼応しなければならない。ある程度のレベルになれば、ラインを確認することは苦ではないだろうが、「初心者」の頃にいきなり色々覚えさせられるのは面白くない(人が多いのではないか)。

 イタリアンでは、順当にいけばミドルゲームに行きつくし、相手との駆け引きも最低限で足り(もちろんそれを後々学ぶこともできる)、駒組み過程もほぼ同じで足りる。将棋でいう棒銀戦法か右四間飛車戦法のように、わかりやすい形である。「何やっていいかわからない」という状況が生じにくい。自分のやりたいことをしやすい。

 

4 例に挙げたルイなどをディスってるわけではない

 以上の理由から、イタリアンを最初にやる方が良いと私は思う。なお、私自身ルイもかなりやるのでルイアンチではない(むしろ楽しい勢)。ただ、「初心者」などに教える内容と自分の好みは峻別する必要があると常々考えている(チェスに限らず)。

 チェス教室などにおいて受講者のレベルや背景(子供か大人か、暗記が得意かそうでないか等)により、カスタマイズ可能であることが理想形ではあるが、モデルケースとして扱うには細かい勝率とか気にせず「とりあえず」イタリアンが良いのではないかという感想である。加えて、他のオープニングが良いのではないかという意見を否定するものでは全くない。違う考えの人にも、これはこれで確かに一理ありそうと思ってもらえれば幸いである。