思考錯誤

細かいことを気にしてしまう

将棋でもできる限り棋譜とろう委員会

1 よくある対局後の悩み

 プロや強い人の感想戦において、盤を動かさずにすらすらと口頭で検討をしているのをよく見かける。局後に一局を最初から並べるのが大変な人は、すごいなと思うことが多いだろうし、憧れる人もいるだろう。ただ、頭の中で上記のような作業をすることは、中々難しいものだし、会得できたとしても時間がかかるものである。

 また、対面での対局後に、家でソフトにかけてみようとか改めて検討してみようと再現しようとすると、どうもうまく再現できないというケースもあるだろう。特に社会人の方々は将棋に割くことができる時間が限られているだろうから、対面の対局というせっかくの自分に特化した教材はできるだけ活かしたいところ。

 

2 オプションとしての採譜

 これらを解決する一番容易な手段は、自分で棋譜をとりながら対局することだと考えている。もちろん、ガチ大会ではできないし、TPOには気をつける必要がある。なので、親しい人あるいは理解を得られる相手(指導対局を含む)との対局の機会に、可能ならやる程度で良いと思う。なお、自分が棋譜をとれない場合や、時間切迫で書けなかった等は、相手等にきいて感想戦などで補充できればベストだと思う。

 書きながら対局するのは最初は負荷がかかって大変だと思うので、試す場合も無理のない程度が良いと思う。マメな人は昔からやっているかもしれない。棋譜をとることの現代における効用は以下の通りだと思う。

 

①ソフトで解析検討できること

 当然ながら、棋譜を再現できれば事後的な検討手法としてソフト解析は容易だ。また、感想戦では考えきれなかった候補手や、感想戦で時間がなくて飛ばしてしまったところ、対局者同士では疑問に思わなかったところもチェックできる。もちろん、SNS等で議論されているように、最善手史上主義をとるかは別問題で、私たちのようなアマチュアはソフトとうまく付き合う必要はあるだろう。いずれにしてもざっくり言うなら復習容易。

 採譜方法につき、私は紙でしっかり書く派だが、上記で述べたようなTPO考慮や相手の承諾を得られれば、ぴよ将棋等の電子的機器を使うのも手軽かつ解析容易だろう。

 

②脳内感想戦スキルの下地

 符号に対して慣れないとか苦手という人、特に最初の方は多いと思う。棋譜並べとい第三者視点はもちろんのこと、当事者として棋譜にとりくみ慣れることができる。

 

③その場での感想戦の正確度アップ

 熱戦のあまり、この局面ってこうでしたっけ?と曖昧だけどとりあえずいいか…と暫定配置で感想戦をしたことある人がいれば、共感しかない。こういうときに、当然すぐ確認できる。

④メンタル面での支え

 加えて、事後的に自信に繋がることもある。将棋などのゲームはわかりやすい日々の成果が出にくい人が多いだろう。対局後にしばらくしてから以前の自分の棋譜を見てみると、今ならこうやるのになと判断力の向上を感じるケースがある。将棋もマインドスポーツであると考えるなら、過去の自分の棋譜は、その根底となるメンタルを支えうる存在だといえる。

 

④【発展編】時間管理

 もし余力のある人で自分の傾向に興味がある人は、おおまかな残り時間を時折、指し手の横に記載しておくこともできる。例えば、持ち時間20分秒読み30秒のとき、10分・5分・秒読みに入るくらいの段階を把握する。これにより、自分のプレイスタイルとして、序盤に時間を使ってしまうのか等、それは特定の戦型に限るものなのか等を意識ないし改善する機会となりうる。

 

3 さいごに

 この方法もあくまで棋力向上のための手段の提案である。意外にも?やっている人は少ないので、そういう人もいるんだという知見になれば。とはいえ、いくら勉強のためとはいえ、棋譜を完璧にとろうとするあまり、対局時の考える質が過度に低下してしまうのは、本末転倒だろう。このような状態になるなら、無理せず控えた方がいいと思う。また、ザ・練習対局を含むすべての対局の棋譜をとる必要もないと思う。やってみようと思った方も、自分に合っているか、アレンジしてやってみるか等ぜひ考えてみてほしい。

 なお、チェス界では、将棋でいうタイトルホルダーであれど自分で棋譜を書きながらゲームを進めている。今回の内容はその慣習の踏襲であり、私自身のアイデアではない。

国内外個人的チェスニュース

【世界1】Tata Steel(Giriが優勝)

(1)前置き

 伝統的な大会の1つであるTata Steelが行われた。休みの日などを含めると約2週間の日程だ。Mastersが一番上のクラス。位置づけとしては、テニスでいうところの4大大会の一角のような感じだろう。Tata Steelについては日本語のウィキにも書いてあるので、歴史等が気になる人はそこで調べてほしい。当然だが優勝しているメンツがレジェンドしかいない。

(2)Nodirbekの活躍

 今回この大会を盛り上げた一人は間違いなくNodirbek(ウズベキスタン)である。Round1でRapport(※イケメンなだけでなく創造的な手もありファンも多そう)に黒に勝ち、Round5ではCarlsenに黒で勝利し(しかもクイーンエンドゲーム)、最終日までトップを走っていた。最後にGiriと同じくオランダのJorden Van Foreest(※去年のこの大会の覇者)に敗れて惜しくも優勝を逃したが、8ptでCarlsenとともに2位は強すぎる。FIDEレートも18位まで上がっている。

 

 

(3)Giri優勝

 長年勝っていなかったCarlsenにも勝利した上、Dingにも勝利。インドの若手GukeshとルーマニアのRapportにも勝利、他はすべてドローで負けなし。

トップを追走しつづけ、最終ラウンドでNodirbekを抜いて遂に8.5ptで優勝した。レート1位と2位に勝って優勝は文句なしであろう。何度も優勝に近いポジションにいながら届かずということがあったからか、チェスファンは盛り上がっていたようだ。

 

 

(4)その他

 今回Mastersクラスにはインドのプレイヤーが多く、改めてインドの強さも垣間見える。また、MastersクラスやChallengerクラスのいずれにおいても、興味深い変化を採用しているゲームがある。中級者以上であれば、細かい点はさておき、棋譜をみて雰囲気を感じるだけでも面白いかも?

 そしてチェスは棋譜見放題である(日本における将棋や囲碁との大きな違いか)。その上、Chess24やChess.comのYouTubeにおいて(Super)GMが解説している(※当然英語だし長尺な点は注意)。筆者は英語が得意ではないので、時折みる際は解説の候補手や矢印をみたり、良い悪いくらいをがんばって聴きとったりするぐらい。それでも、GMの早見えの凄さを感じた。

 

【世界2】チェス、世界的人気上昇か

 チェスが世界的に人気になっているらしい。チェスセットが売れているらしい。Chess.comはむっちゃ人がいるし鯖落ちもした。なお、個人的にはChess.comでブリッツをしていたら、鯖落ちしてピースアップの対局がなかったことになってしまったのは非常に痛い。

AUTOMATON(オートマトン) on Twitter: "【ニュース】人気オンラインチェスサイト、ユーザー数爆増で1日の利用者1000万人に。世界レベルのチェスブーム到来 https://t.co/0kCJEH96QU https://t.co/oyacj80z5I" / Twitter

 

【世界3】世界王者決定戦の開催場所が決まる

 Carlsenが辞退?し、DingとNepoの二人が対戦することになったものの、最近までどこで行われるのか判明していなかった。先日、カザフスタンのAstanaで行われることが発表された。4月7日スタートのようだ。

 

【日本1】全日本選手権の予選がはじまる

 直近で行われた中四国では牧野さんが優勝。将棋の棋士なだけでなく、連珠などでも活躍されており、ポテンシャルと努力に感服せざるをえない(前日公式戦の対局後に2日間の参加もすごい体力だ)。

 また、来月の東京選手権では2000オーバーが7人参加予定でハイレベルな戦いが見込まれる上、絶対実力的にはもっとレートあるだろこの人って人もいるので、激戦必須だろう。Chessresultsでは千葉などのメンバーも把握できるので、そこらへんが気になる人は要チェックだ。

 なお、全日本予選はオープンの大会(※レート等の条件がなく、年会員や一大会会員なら誰でも参加できるもの)であるが、NCS(日本チェス連盟)は、ルーキーズやステップアップといった大会を開催し、敷居が高そうと思われがちな大会参加を促進している。普及面だけでなく、いきなりガチ大会は…というプレイヤーの不安を払拭する面でも良いことだと思う。

 

【日本2】チェスができる場所、徐々に増えている

 NCS公認クラブも最近追加されたほか、会員であるかにかかわらずフランクに参加できる場も増えている。非常に良いことである。

 といっても、初参加者目線としては、どの分野であっても初めての場所にOTBや教室に行くには勇気がいるだろう。私自身も、最近久しぶりにOTBに復帰する日むっちゃ緊張した。知り合い等がいるならまだしも、純粋にはじめてなら尚更だろう。

 そのような人が少しでも勇気をもって教室やOTBに参加することができるように、工夫できるところはしていきたい(この点に関しては長くなるのでまた改めて)。

チェスのチーム戦感想(対局内容以外の面・図面等なし))

9月17日及び18日に開催されたチェスのチーム戦に某チームの一員として参加した。大会自体久々であったこと等もあって色々と気づきがあったため、以下に記したい。なお、他の方が書いているような局面解析等はない。

 

0 参加までの筆者のチェスの状況

1 新しい団体になってからの運営について

2 疫病下における大会について

3 シシリアンについて

4 プレイヤーとして久々に対局して

5 おわりに

 

 

0 参加までの筆者のチェスの状況

当初はルールのみ認識し、ヤフーチェスやハンゲームで遊ぶ程度。大学時代から改めて基本的な部分を学ぶ。大学在学中はチェスサークルに顔を出しつつ、時折大会に出る感じ(前の団体では仮レートのまま終了)。将棋もやる。大学院進学後は学業に専念しており、全くやっていない。最近環境が変わりリアルチェスに復帰したいと考えていたところ、久々にチーム戦が開催されるということで、いい機会だし参加することに。

 

1 新しい団体になってからの運営について

上記の経緯ゆえ、今回のチーム選手権前に年会員登録をし、統括団体が変わってからは大会初参加。以下の点で、大会に参加しやすくなっていると感じた。なお、当時よりお子さんを含むチームが増えているような気がした。NCSや熱心な方々の普及の成果なのかもしれない。

 

①盤駒、時計、棋譜用紙を運営側が揃えてくれている

 当時はこれらを自分や相手が持参しなければ、他の人に借りたり、運営側から有償で借りたりする場面があった。普段から例会や大会に参加している人は問題ないが、久々勢やはじめて行く勢(ないしそのような人を誘う勢)には心理的及び経済的負担があった(※なお、名古屋チェスクラブさんなどは従前からこのようなスタイルであり当時から助かっていた)。

 現在は、これら一式を自ら準備する必要がなく、比較的参加しやすいものとなっており、非常にありがたい。

 

②結果が速やかに反映されている

 細かい当日の成績などは、従前は中々個人では把握しづらかった気がする(特にチーム戦では)。これに対し、現在は可能な限り迅速にChessResultに反映され、オーダーの参考になるし、選手の名前やレートなどの最低限の情報はすぐに参照可能。

 

③チーム結成しやすい

 当時は公認チェスクラブとのかかわりなど、チームを組んだり参加をするのに一定の要件が必要であった(そもそも確認不能ではないかと思われる要件まであった)。一方、今回は文字通り好きなメンバーで組むことができる上、個人で参加してNCSチームというパターンもあり、裾野の広さを感じた。この緩和があったゆえに私も思い切って参加することができている。

 

④ルール等や注意点に関して英語での要約説明がある

 今回も日本在住だがメインは英語を使う方が参加していた。当時からそのような人はいたが、現場の説明は日本語のみであったため、おそらく知り合い等がいないと参加しにくかったのではないか(あくまで推測)。そういう点では、ハードルが下がる方もいるだろうから、プレイヤーを集めやすくしており良いと思った。

 

⑤まとめ

 今回のチーム選手権は、運営の方が言及されていたようにプロから初心者まで参加できるという点で、プレイヤーとしても普及の観点からも非常に良いセッティングであったと思う。なお、会場の王子の北とぴあで検討室に行くのが結構乗り換えが大変だったが、そこらへんは規模や借りる時期の都合もあるだろうから、甘受するほかないだろう。

 

2 疫病下における大会について

 

①観戦の制限を設けたこと

 今回はリーダー以外は対局終了後は直ちに対局室から出るルール。リーダー以外は他のゲームを観るにはゲーム中に歩き回るほかない。IMやFMの方々のゲームや試合運びを試合後などに気軽に観れないのは残念だが、参加者が多数であったことかつ久々のチーム戦であったことも考慮すると、運営の負担を減らすためにも、この点はやむを得ないだろう。

 一方、その分時間が経つにつれて控室が人であふれてしまっていたため、予算の都合など難しいところはあるかもしれないが、工夫の余地はあるかもしれない(※試合が終わった部屋を有効活用するために、全試合終わった部屋はそうわかるように「検討室として利用可能」等、扉にプレートを置くとかはどうか)。何よりもこの疫病時代が過ぎるのが一番ではあるが。

 なお、検討は各自の責任でということであったため、私自身は小型チェスセットを持参して相手の方が応じてくれた際は感想戦をした。疫病下を経て、私は対面で試合をする意味として、可能であれば熱いうちに検討をすることが重要だと思う(+これを介した交流を含む)。後で解析はできるのはもちろんだが、対局中の読み筋や感触などを確認できる貴重な機会だ。また、ネットだとどうしても「ハイクソ~~~二度とやらんこんなクソゲ~~」ってなってしまうが、感想戦があるとまだ気が紛れる気がする。

 

②検温消毒マスク着用等の励行を求めたこと

 従前にNCSとして対策の徹底をするよう求め、それを参加要項に記載してあった。またリーダー会議では、その点に関して質問や付言がされていたようであった(※私はリーダーではないのでリーダーから流れてきた情報をみた限り)。知り合いのメンバーの中には医療従事者も居た上、私自身もハイリスク勢なので非常に助かる。

 当日も入場前やルール説明時に感染症対策ルールに言及していて運営としてとても良かったと思う(英語で同内容を述べることも含め)。あとは参加者自身の問題であろう。NCSルールでは不織布マスクをしっかり着用することの厳守が求められている(COVID-19 ガイドライン改訂版 | National Chess Society of Japan - NCS)。少なくとも試合会場ではこれを守る必要があるだろう。多くの人がこれを厳守していたが、そうでない人もいたのも確かである(私の対局相手の一部もそうだった)。ネットや世間では不織布かとか着用かとか話さない対局時に厳守する合理性とか意見が種々あるだろうが、個々人の意見にかかわらず、大会を運営する側が指定したルール(=ドレスコードの一種)は守るべきであろう(普段参加するサークルなどではそのルールを守ればいい)。自身の都合で長時間着用がつらい事情があるなら、事前に運営や相手に告げたり、時折退席して空気を吸いにいくなど工夫する必要があるのではないか。

 このルールに関し、イリーガルムーブのような盤上のペナルティではないから、違反ですぐさまどうこうではない(ゆえに難しいのかもしれない)。また、運営の人数も限られているだろうから、すべての事象に逐一目を配り、注意等をすることも困難であろう(今回設けられたリーダーを介して質問等をすべきルールもそのための趣旨だろう)。ただ、後に聞いた話では、別の大会で厳重注意されている人もいたようなので、一参加者としては一応指摘すべきであったかもしれない。

 

 何をそんな細かいことをと思われる方もいるかもしれないが、この議論に類する出来事は去年将棋界で起きたことであり、結果的に将棋連盟が対局中の着用を要件として義務づけることになったのである(しかも違反即負けという効果)。

 このような盤外での懸念はできるだけ払拭して、せっかくの真剣勝負の場を活かして、真にボード上で勝負をしたいと私は思う。高潔すぎると思われるかもしれないが、相手を慮ることや礼節は、将棋でも囲碁でもチェスで重要な事項の一つだと思っているため、私のように思っている人はたぶんいると思う。自分としても、参加する際には、要項を今後もしっかり見るようにしたい。

 

3 シシリアンについて

 ここまでは運営や参加者について言及したが、一転して試合や観戦をして感じた点を少し述べる。それは「e6シシリアン日本で前より人気になってる…!?」である。タイマノフもカンも私が現役学生の頃はやっている人をあまり見なかったからか、対e4のレパートリーとして割と刺さりやすかった(エッセンスを理解しておくくらいで)。

 しかし、時は経ち結構指されるようになると、こちらもしっかりプレパが必要である。今はやる気が結構あるので、シシリアン以外を含めて今後は色々混ぜていきたい。

 

4 プレイヤーとして久々に参加して

 まず、45分+30秒/手という非常にしっかり考えることができるタイムコントロールは久しぶりで充実していた。将棋や囲碁では、少なくともアマチュアにおいて、このクラスの長さを1局に費やすことはできない。その意味でも貴重であった上、やはり日々の雑念や嫌なことを一時的にでも忘れされてくれるのは「没頭」であると思った。

 加えて、チェスは自転車のようなものだと思った。久々にやると細かいオープニングなどの変化はさすがに忘れてしまっているが、多少触れるとある程度感覚的な部分が戻ってくる。自転車にしばらく乗っていなくて不安でも、乗って走りだすと体が思い出すみたいな感覚だ。これを読んでいる方も、日々の学業や仕事を通じて、通底する思考部分は維持(うまくいけば向上)できるかもしれない。

 

5 おわりに

 色々言及したが、総じてリアルチェスはやはり楽しいという気持ちが強く残った。久しぶりに会った方々とお話や対局もできた。友達おらんし…と思う人もいるかもしれないが、個人戦等に参加していても、何度も参加してれば顔見知りみたいな感じになることも多い。仮にそうでなくとも、礼節を守れば対局すること自体が交流である。とっつきやすい例会や大会に是非参加してリアルチェスを楽しむ人が増えれば幸いである。

 読みにくいところはご容赦願いたい、読みやすさも向上していきたい。

 

チェス初心者にはイタリアンが良いと思っている人雑感

表題のように思うに至った理由及び経緯を以下に記したい。

 

0 筆者の属性及びチェス歴

 私は当初は純粋将棋勢で、ハンゲームやヤフーチェスがあった頃に、ルールを覚え、気分転換にやっていた。その後は、特にそれ以上のことはせず、将棋は細々続けている状態であった。さらにその後、チェスサークルが存在する大学に入ったため、そこで改めてチェスをしっかりやるようになった。大学在学中は大会にも時折出ていた。大学卒業後はしばらく別のことに打ち込んでいたが、最近また復帰しはじめたところである。

 

1 そもそも「初心者」にグラデーションがある

 ツイッター等で時折、初心者におすすめの定跡は何かという話題を見かける。これはチェスに限ったことではなく、将棋でも棒銀のあとはなにするかとか、囲碁でも同種のものを見かける。

 しかし、「初心者」は一種の評価であるから、人により想定されているレベルが違うことがあり、注意を要する。ここでは、いわゆる入門書をある程度読んで、ルールや駒のおおまかな価値がわかったり、簡単な1手メイトが解くことができたりすることを前提として、何回かゲームを最後までやったが、せっかくだししっかり取り組みたい(が、何をやっていいかわからない)くらいのイメージで「初心者」としたい。

 

2 私自身の経験について

 上述の通り、私は大学入学後にルール以上のしっかりしたことを学びはじめた。その際、同じサークルに私よりもはるかに強いプレイヤーがおり、彼にイタリアンを勧められた経験がある(なお、現在彼はトッププレイヤーの一角である)。私はシェフの専門性を信じて日替わりランチ頼みがちなタイプなので、こういうことは専門家に任せた方が思い、素直にイタリアンを教えてもらったり調べたりした。したがって、私が最初に意識的に触れたオープニングはイタリアンである。

 私はトッププレイヤーとはほど遠いものの、大会等で勝ち負けを楽しむことができる

程度に充実するレベルには達しているので、間違っていなかったのではないかと思う(??「私が証明です」)。

 

3 なぜイタリアンかを分析する

3-0

 チェスのオープニングは膨大である。すべてを網羅することは早々できないし、趣味として向き合うような人には、好きなのをやってみればいいよと任せられても困る可能性が高い。好きな料理選んでいいよと言われても横文字ばかりで料理の中身が全然わからない。そこで、本人に特段の事情(※)がない限りは、このオープニングから学んだほうがいいということを教える側(特に指導者的地位)が持っていて損はない。

 

※ここでいう特段の事情は、将棋や囲碁などの別のゲームで序盤等の高度な技術や経験をもっていて、自分で好きな定跡を探すことができ、かつ、それが苦でないようなタイプを想定する。

 

3-1 理由① チェスの基本原理の習得ないし定着に有効

 

3-1-1 センター

 チェスで自分が勝ちやすくなる方法は種々にわたるが、「初心者」がまず定着させたいものの一つとして、『センター(の重要性)』がある。イタリアンはビショップ、ナイト、ポーンを使ってセンターの効きを増やしたり、センターに効いているポーンを支えたりすることを目的とする手が多い。このようないわば『自然な』駒運びを身に着けるには、もってこいなのではないかと思う。目標をセンターに入れてスイッチ。

 また、微差はあれど、黒がe4に対してd6やg6などを選んできたときに、とりあえずイタリアンみたいに組めば即死しないという応用も効きやすいと思う。

 

3-1-2 ビショップとナイトの動く回数

 キャスリングをするためにはこれらを動かす必要がある。上記とあわせて、ビショップとナイトをセンターに効かしながら+ピースを落とさずに+キャスリングの準備をするという、上級者が自然と行っていることを理解するのに明瞭である(当然Evans Gambitなどはここに含まれない)。

 一方、ルイは意外とチェスの基本原理と異なる動きをする。つまり、メインラインでビショップが3回動いてb3やc2に「最初から」「相手にポーンをつかせながら」「わざわざ」移動する。普通はこれらの駒を動かす回数は少ない方が良い。最初から例外を扱うのはためらわれる。

※ルイのこの動きについてはIMの小島さんも以前ツイッターで言及していた。

 

3-2 理由② 自分の動きをある程度固定化できる

 ピースを落としたり、f2をアタックされて負けたりという場合は別として、ルイではGMうしの対局でも見かけるベルリン等のラインが潜んでいて、白は細かく相手の動きに呼応しなければならない。ある程度のレベルになれば、ラインを確認することは苦ではないだろうが、「初心者」の頃にいきなり色々覚えさせられるのは面白くない(人が多いのではないか)。

 イタリアンでは、順当にいけばミドルゲームに行きつくし、相手との駆け引きも最低限で足り(もちろんそれを後々学ぶこともできる)、駒組み過程もほぼ同じで足りる。将棋でいう棒銀戦法か右四間飛車戦法のように、わかりやすい形である。「何やっていいかわからない」という状況が生じにくい。自分のやりたいことをしやすい。

 

4 例に挙げたルイなどをディスってるわけではない

 以上の理由から、イタリアンを最初にやる方が良いと私は思う。なお、私自身ルイもかなりやるのでルイアンチではない(むしろ楽しい勢)。ただ、「初心者」などに教える内容と自分の好みは峻別する必要があると常々考えている(チェスに限らず)。

 チェス教室などにおいて受講者のレベルや背景(子供か大人か、暗記が得意かそうでないか等)により、カスタマイズ可能であることが理想形ではあるが、モデルケースとして扱うには細かい勝率とか気にせず「とりあえず」イタリアンが良いのではないかという感想である。加えて、他のオープニングが良いのではないかという意見を否定するものでは全くない。違う考えの人にも、これはこれで確かに一理ありそうと思ってもらえれば幸いである。

  

 

棋書レビュー:『羽生の終盤術シリーズ』(浅川書房)

【棋力向上に対する必要性】★★★

【専門性】 ★★★

【読みやすさ】★★★

 

  1.  概要

     筆者の対局で現れた実戦の局面を示し、そこから1手ないし数手を読む問題集。2022年時点で合計3冊出版されている。

  2.  シリーズ全体について

     難易度は、他のブログやSNSにも記載があるように、3→2→1と考えて問題ない。したがって、3冊出版されている現在においては、級位者レベルであれば、上記の順のほうが読みやすい。シリーズ3冊目などは、アマ四段程度になれば、容易な問題もあるとは思う。ただし、30秒将棋その他の短時間に指し手を選択する場面が多いアマ将棋においては、寄せの手筋200などと併せて、思考プロセスの確認及び定着には十分役立つ。一方、シリーズ1冊目は、アマ四段程度でも、初見では難しいと感じる局面が多いと思われる。2冊目はその中間といったところ。

  3.  得ることができる内容

     シリーズ2及び3においては、いわゆる手筋本で紹介されているものを、具体的な局面の中で使う練習になる。副題において、『基本だけでここまで出来る』と書いてある通りである。
     『羽生の法則』シリーズや一般的な囲いの崩し方の本などで紹介されている手筋を、様々な駒が散らばっていたり、囲いがお互い崩れたりしている状況で、実際に選択肢に入れることができるようになる。例えば、この形なら大駒を捨ててでも玉を下段に落として勝つことができる、ということを手筋本(問題集)でマスターしていても、うまく使うことができていない人は多いだろう。そのような人には、一層の向上が可能であろう(☆1)。

    ☆1
    頭の中に入っている技であっても、当該局面でその使用可能性を認識していなければ、実際に使うことはできない。対局中の思考のオプションが増やすには、「何かあるかもしれない」と考える場面を増やす必要がある。その意味で、「ここであれって使えないかな?」と考える習慣づけになるだろう。

     シリーズ1においては、上記の内容に加え、より高度な思考を学ぶことができる。具体的には、終盤の入口やもつれ込むんでいるような場面で、局面のどのような部分をどう評価し、どのように組み立てる(=理想に持ち込む)かを、学ぶことができる。チェスでいうストラテジー(※直訳すると「戦略」であり、将棋でいう「大局観」と表現される一部。)に通じる部分がある。

     将棋においては、終盤の「大局観」(が良いor悪い)という感覚的な表現で片付けられることが多いところ、それを局面の評価や何が必要かという分析的な観点で記されているところに、学びが多い。

  4.  類似書籍との比較

     同種の内容を学ぶことができる書籍は、『戦いの絶対感覚シリーズ』(※羽生先生のものは2022年4月現在、装丁は変わっているものの再販されている。)や『読みの技法』、『アマの将棋ここが悪い』シリーズ、近年であれば『イメージと読みの将棋観』などが存在する。

     本シリーズの特徴は、局面の連続性にある。具体的には、他の書籍の多くは、この図面をどう評価するかという内容の中で、形勢や変化手順を記載している。一方、終盤の入口から必至や詰みに至る段階までの一連の流れを、思考過程とともに集中的に学ぶことができる。上記の本でもこのような箇所はあるものの、この思考過程の訓練に特化したものは稀有である。

     なお、私自身、アマの指し将であるが、「良い(とか一手勝ち)のは確かにそう思うけど、具体的にどういう考えでどうするねん!」と思うことが多々ある。そのような場面の補助になる本である。

  5.  感想等
     非常に読み応えのあるシリーズであり、何度も繰り返し読むことで、終盤の考え方を感覚化することができる。一方、上述のように、分析的な目線も養うことができる。
     出版されてから年数は経っているものの、日々変化する序盤などと異なり、原理的な終盤の考え方を学ぶことができる。類似書籍を所持していたとしても、シリーズ3冊目の試し読みなどをして、内容が理解できるレベルであれば、読むべき本といって過言ではない。

 

将棋の手筋の名称と前提条件①

0.本稿の趣旨

【注意】完全に趣味の世界で読んで強くなるものではありません。忙しい方は太字や下線部のみ読み、ご興味や余裕があれば詳細を是非読んでください。

※のついたところは直前の文章の分析・蛇足なので文脈的には飛ばして大丈夫です。

 まず、すぐに強くなりたいという方はこれを読む必要はないでしょう。本稿は既存の将棋用語につき、概念を分析するにすぎないためです。せいぜい、思考の整理または将棋を教える方にとっては教える際に他の概念と峻別する参考になる程度でしょう。

 

 将棋は、書籍や解説において、様々な専門的用語を用います。外国語のようなものといってもいいでしょう。用語の辞典は存在するものの、多くの辞典は、その会得は、意外と感性に頼られていると思います。典型的には、今回の「焦点の歩」であれば、①「焦点の歩」の典型例の図(あるいは次の一手)、②その手順による効果(駒得、効率の低下など)の説明がなされているものです。これをすぐに吸収できる人も少なくないです。しかし、単に飲み込むことが苦手な人あるいは追及することが好きな方は、大変かもしれません。そういう方は、たとえば複数人の教室を受講している場合は、個人レッスン等を受けていない限り、置いていかれることになります。

 

 プロになる方は、編入試験等の例外を除き、年齢制限の中で勝ち抜いた者だけです。その意味では、プロになるための勉強としては、速度・吸収力が重要であり、基礎的な部分においては既存のものが優れているでしょう(ソフト含め)。一方、アマチュアであれば、プロになるための手法と同じ必要はありません。考え方や、頭の中への箱詰めの仕方は柔軟にできるはずです。その一端として、将棋の概念や当然視されているものを分析することで、より深い理解を得られる(人がいる)のではないかと思い、気が向くたびに書くつもりです。

 

 最後に、以下は私の今日までの経験から生じた疑問及び考え方であり、当然にアマを含めた将棋界で有力な思考法ではありません。加えて、私自身、将棋が強いというわけでもありません。以上をご承知の上、普段の対局や棋書を読む際に、試行錯誤する(場合によっては立ち止まる・混乱してしまう?)契機になるかもしれないと思い公開する次第です。

 

 

1.手筋の名称?

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この一手、通称として何と呼びますか?

 いわゆる『焦点の歩』の一例です。入門書や様々な本で、『歩の手筋(使い方、テクニック)』といった紹介をされているのが通常でしょう。

 

将棋をはじめたばかりの方でも、本を読み進めたり、講師の方に教わっていれば知っているかもしれません。ある程度指した方はなじみ深い用語でしょうし、上記の振り飛車に対する典型的な場面はご存知かと思います。

 

有段者の方や上級者の方は、感覚的に、あるいはいままでの経験や論理からここで使うと判断できると思います。しかし、よく考えると、先に一歩損をする(捨てる)タイプの手筋です。ミスればただの駒損です。使う場面を見極めるのは、初心者や将棋を勉強して上達しようとしている方には容易ではないはずです。

 

 そこで、対局をこなして様々な場面で試す・手筋や次の一手の本を読む等々から、自分の経験を増やし、『こういうときは焦点の歩だけど、こういうときはやってはならない』とルールを作っていくことが多いのではないでしょうか。

※難しくいうなら『帰納的』に上達することが求められているでしょう。将棋は対局時には基本的に演繹的思考の積み重ねだと思います。序盤の定跡本や終盤の詰将棋は、まさに演繹的作業の蓄積です。

 

【疑問①】駒の効きが重なる焦点に打てば、すべて『焦点の歩』なのか?

【私の結論】焦点に打てば『焦点の歩』というわけではない。

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穴熊でよく見る手筋だが・・・?

第2図、一般に『たたきの歩(歩のたたき)』と呼ぶと思います。

よく考えると、香・桂・銀が効いてるから''焦点''ではあるはずです。

でも普通『焦点の歩』とあえて言わない。

つまり、『焦点の歩』は焦点に打つものだけど、焦点に打てば『焦点の歩』とは限らないでしょう。

※論理的には、AならばB、BならばAは真偽が変わる典型でしょう。

 

例)人間(→『焦点の歩』)であれば動物(焦点)であるが、動物(焦点)であるからといって人間(『焦点の歩』)とは限らない。

 

2.では焦点の歩とは何なのか

 将棋で用いる多くの用語は、『目的』ではなく、『結果・状態・現象』を示しています。将棋の本では、先に『結果・状態・現象』を表題で示し、それはこういう場面(具体例・例示)だと教えるものが多いです(※)。これを踏まえるだけでも、本の読み方や説明の聞き方は変わるのではないかと私は思います。例えば、『金底の歩』は、金の真下に歩を打った状態を示すもので、『何のために』するかは別の話です

 

※学校で習う現象の名前でも、学問の定義(概念)でも、結局はわかっている人のやりとりで使う便利な名称にすぎないことがあるでしょう。この『目的』や条件を、実戦や本の事例から学んでいく、あるいは無意識に感覚を得ていくのが伝統的なやり方でしょう。昔ながらの職人の技を目で盗めというのに近いものを感じます。

 

『焦点の歩』の条件は、上記の典型例から分析すると、

【条件1】 複数の駒が効いているマスに(前提場面)(広い意味での焦点)

【条件2】 歩をその効きに捨て(=無料)、取らせることによって(手段)

※第1図で▲2五桂がいれば、感覚的に『焦点の歩』ではないのは、「捨て」ていない

【条件3】 特定の駒の効きを遮断し又はずらす(効果)

は確実な条件でしょう。

 

しかし、これだけでは第2図(穴熊の端に歩を打つ図)でも全条件があてはまります。

何が『焦点の歩』に足りないのか。

 

私の仮説は、

【仮条件4】相手の応手後に最善であっても直ちに駒得等の優位に導く類型(3手目の効果)

ではないかと仮定しています。よりよい条件はあるかもしれませんがこれを仮説とします。

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上記は第2図の再掲です。

例えば、先手に5一飛がある場面であれば、△同銀とはせず、△同香が通常です(最善の応手)。

形を崩しても、3手目に、その歩により駒得等の効果を得るものではありません(¬『焦点の歩』)。

こう考えると、最善の応手でも得をするということが読めないと、『焦点の歩』かは判断がつかないことになります。

 

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概念的には上記になるのではないでしょうか。

 

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 第3図は純粋な『焦点の歩』、第2図は『焦点の歩』かつ『たたきの歩』に該当する部分(ベン図の重なる部分)。競合した部分は上記の条件を満たす限り、『焦点の歩』の概念が優先するという整理です。

 教える立場で考えるなら、突然「ここは『焦点の歩』だ」と教えるのは、結果から教えていることになります。この方程式を解から教えているようなものです。『焦点の歩』を伝授するには、駒得をするにはどうすればいいかといった目的的思考とともに伝え、これにより得する流れを『焦点の歩』ということを把握させることが最速なのではないかと私は考えます。『焦点の歩』、よく使うけどこういう条件を(できる人は)自然に身につけているのだと思います。

将棋及びチェスに通底する思考・差異の考察

0.契機

 将棋とチェスのいずれかを覚えてある程度上達した人が、もう一方にチェレンジすることは少なくない。筆者もその一人である。いずれも起源をたどれば同じゲームであるというのが通説である一方、駒の動きや再利用の可否といった違いも大きい。どちらかをすでに勉強している人は、その見識や思考法をもう一方に生かし、より理解を深めることができるのではないかと思い、この記事を書いてみる。いずれも入門書に書いてあることだけでは難しい用語もあるかもしれないが、余裕のあるときに図などを足せればと思う。

 なお、筆者は将棋は一介のアマチュアであるし、チェスも高レートではない。ゆえに、それぞれあるいは両方が専門の方にとっては、物足りないと思う。そのような方は、両方やっている1プレーヤーの考えとしてぜひ批判的に読んで頂きたい。

 

第1 一局の流れ

将棋では「序盤」・「中盤」・「終盤」、チェスでは「オープニング」・「ミドルゲーム」・「エンドゲーム」に大きくは分かれている。ただし、必ずしも考えるポイントは対応関係にはない。

 

第2 序盤・オープニング

【共通点の例】

・スタート時点より駒の働きを良くする

・玉やキングを安全な場所へ移動させる(激しい急戦は除く)

 ※いずれも戦いの準備である

【差異の例】

・駒の動きの違いに対応し、チェスはすぐに駒が次々にぶつかりあう定跡が多い

・弱い駒を用いた捨て駒に対する評価が異なる(将棋の方が捨てやすい)

・将棋は「囲い」という主に金銀を用いた要塞、守りを作る

 

1.オープン

(1)オープンとは

 最近は部分的に将棋でも登場してきたのが、「角道オープン(振り飛車)」の用語である。これはチェスの「オープンファイル」の「オープン」に近い概念だと思われる。ざっくり言うならいずれも駒の活動範囲が広く(角やビショップ・ルック等が自分の歩・ポーンに遮られていない)、もし対面した駒どうしが存在すれば取り合うことが可能な状態である。典型的に以下の視点では、角やビショップが向かいあった状態を想定する。

(2)チェスのオープンの視点の一例

 しかし、将棋は持ち駒にでき、チェスは取った駒は使えない。これに伴い、チェスにおいては、黒マスと白マスのいずれをどちらが支配しているかが重要になる(将棋でたとえるなら、後発的な「筋違い角」という概念は存在しない)。つまり、「オープン」であることの緊張感は、ビショップ交換をすると交換した色のマスをカバーしにくくなり、後に引けないということにもある。チェスでは、黒マスや白マスへの効きが盤上から減ることにより、進んできた駒を追い返せなくなる・駒が減ったエンドゲームでとられないかといった視点が必要である。

(3)将棋のオープンの視点の一例

 一方、将棋の場合は、持ち駒はどこへでも打てるから、陣形(特に自陣)の隙をつかれないようなバランス感覚が重視される。つまり、交換できる状態になっていること自体が、直ちに陣形に制約を与えている。さらに、打ち直すことができるし、角が馬になれば筋違いにもな行くことができる(極端に言えば色々やりなおせる、ビショップは「成る」ことができない)。このように、ひとくちにオープンといっても、双方の視点は異なっていることに注意する必要がある。

 

2.将棋の序盤とチェスのエンドゲームとの間の共通性

(1)手渡しと将棋

 使える駒を筆頭に全然違うと思っていても、似ている点がある。それはパスができないルールに起因した、手渡しである。将棋では、特に角換わりにおいて、一手でいける場所にあえて二手かけていく動きがよくある(金や下段飛車の動き)。この趣旨は、相手の形が最善でないタイミングを計って攻めようというものである。一方、終盤では手渡しをする場面は少ない。色々な駒が玉に迫り、持ち駒も増えて相対的に手段が増えるゆえ、端的に言うならそんな暇がないためである。

(2)手渡しとチェス

 一方、チェスの手渡しは主に(ポーン)エンディングの技としてよく見る。例えば、「トライアンギュレーション」というキングの動きである。これも一手でいけるところにあえて二手でいく手筋である。この趣旨は、チェスでは駒が少なくなったエンディングにおいて、クイーンに昇格しうるポーンを取られないように、あるいは進むことができるように、相手のキング等に呼応した動きをするものである。また、チェスには自分が動くと損する(=パスが最善だができない)状態として「ツークツワンク」がある。これを利用した手筋みたいなのも見かける。これは、将棋と異なり、盤上のダイナミックさが小さくなっていくことが多いため生じている(クイーンエンディングは違う気がするが…)。

 このように、場面は全く違うものの、将棋の序盤のスキルとチェスのエンディングのスキルは通底する部分がある。全く別のゲームといっても、いずれかをやっているともう片方の上達が早いのは、単なる「読み」だけでなく、こういうところにもあるのだろう。

 

第3 中盤・ミドルゲーム

1.組み換え

 中盤は、序盤及び終盤を全体から控除した部分とする。駒がぶつかっているか等、定跡やオープニングによる(明確に定義はむずかしいと筆者は思う)。ここは共通項をあげる。チェス用語の「マヌーバリング」がわかりやすい。将棋だと陣形の組み換えとか(舟囲いから左美濃など)、大駒であれば「(角・飛の)転換」という言い方をする。いずれも、相手の陣形との関係で、より駒の働きが良くなる(=攻めやすくなる、守りやすくなる)場所へ駒を移動させることである。

 

2.手筋とタクティクスについて

 将棋の「手筋」は「その形における部分的なセオリー」である(日本将棋用語事典から引用)。各駒ごとに分類されていることが多い(羽生の法則シリーズなど)。チェスでは「タクティクス」の一部がこれに共通する部分である。将棋をある程度やってからチェスをやる人は、おそらくタクティクスは得意だと思われる。ただし、持ち駒を使うものではなくポーンであっても代償が大きいことが多い。ゆえに、水面下の変化としてが多く、将棋ほどは決まらない印象だ。将棋からチェスをやる人は狙いすぎに注意な気がします(経験談)。

 なお、「にらみ」の一種が「ピン」(ピン留めのピン)と表現されるように、同じ現象を別の視点から説明する場合もあるため、指導者の参考にもなるかもれしれない。

 

3.大局観とストラテジー

 チェスでは駒が動くスペースをより重視していると思える(場の支配の一種)。将棋でもこの考えは一部で用いられており、森内先生の「戦いの絶対感覚」(河出書房)においても、チェスの考えに言及されている。将棋では「(大)模様」が対応する用語かもしれない。

 対抗型における玉頭位取りがこの考えを軸にした戦法であろう。また、最近は金を前線に繰り出す将棋が以前より増えてきたため、金の使い方を考えるにおいても、この考えが役に立ちうる。

 

4.isolated,connected

 チェスにおいては、主にポーンどうしの繋がりを示す用語として、isolatedとconnectedがある。将棋と異なり、ポーンの進行方向は前でも、取るときの効きは斜めゆえである。ポーンどうしがチェーンのようにしている構造は、もとの部分を引っこ抜かない限り、タダで取ることができない。

 これと完全に対応するものではないが、片美濃囲い・銀冠・横歩取り松尾流・エルモ囲いなどでは、金銀が相互に結びついている形が堅いことが前提となっている。駒どうしの連結の強さの評価である。いままで評価の前提となっていたものが、だんだんとそれを前面に出した戦術として顕在化しているように思える。例えば、角換わりの変化で3四銀+2三金の形が直ちに悪いといえないケースが増えたこともこの影響ではないか。